くつひもむすべない

一次二次問わずたまに18禁の小説を載せるブログ

朧月夜

  何だかんだ言ってこの男が自分のすることに弱いのは元より知っていたことだからだ。
「月、綺麗だな」
「そうだな」
告白してるんじゃないぞ」
「知っている」
「月に虹の糸が巻きついているみたいだ」
「随分詩的な表現だな」
「俺、ロマンチストなんだよ」
そんな取り留めのない会話をしながら寄り添う。普段ならばこんなに密着することもないし、自分からこんなこともしない。だが今だけはこんなことも許されるんじゃないかと思った。鬼丸はきっと他の男にはこんな行為許さないだろう。許されるのは自分だけだ。自分だけ、この位置を独占できる。
「なぁ、知ってるか。こういう月が霞んでいる空のことを"朧月夜"と言うらしい」
「"朧月夜"と言ったら源氏物語だな。確か和歌にちなんだ名前だとかいう」
「"照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき"、だな」
「彼女は宴の夜に光源氏と出会って東宮の女御に入内する予定だったが、関係が発覚して破棄されたんだってな」
「悲しいもんだな」
「それに二人が出会ったのは桜の季節だったようだ」
「春は恋の季節とも言うしな」
「随分ロマンチックなこと言うな」
「だから俺ロマンチストなんだって」
元の主が死んだのも旧暦の五月だったな」
鬼丸が声を潜めて言う。どことなく声色が暗く、童子切は鬼丸の顔を見ないように俯いた。
きっと"あの男"のことを言っているのだろう。永禄の変で討死した、あの元の主のことを。
お前、そんなの覚えているのか」
「たまたまだ」
「本当か。それにしては随分と声が暗いが」
「様々な人間の元を渡り歩いてきた。あの男はそのうちの一人だったに過ぎない」
「思い入れはないのか?」
どうだろうな」
少し声色が明るくなって顔を上げる。見ると鬼丸は嫣然と笑っていた。
死は人間に必ず訪れる。どんな豪腕の武将でも逞しい勇士でも平等に死は訪れる。
自分たちもその逃れられない運命を受け入れているはずだった。既に悟っているはずだった。
「人間は脆いな。いつかは必ず死ぬ」
「物もいつかは壊れる。だけど俺たちは何百年経っても元気なまんまだ」
「色々な人間の元で色々な刀と出会ったが、俺たちまた巡り合ってしまったな」
「全くだな。腐れ縁というやつか」
「嬉しくない」
鬼丸は童子切の方を向き見据えた。その表情はどこか淅瀝なもので、童子切は戸惑った。
思わず身体を離した。未だ見つめてくる鬼丸に童子切はどこか居心地の悪さを感じた。
耐えられず口を開こうとして、突如腕を引っ張られる。
腰に手を回され身体が密着する。状況を把握した途端、着物越しに体温が溶け合い、熱が上昇する。鉛の体を動かそうとも力が強く振り解けない。蜘蛛の糸に絡め取られた哀れな蟲のようにじわじわと責められる。ゆっくりと雁字搦めにして逃げられないように、壊れないように。
亡失した人間のことは記憶の片隅に消え、いつかは忘れてしまう。逆に忘れたくても忘れられない奴もいる」
……………
「どんなに離れようともまた巡り合う。磁石みたいだな」
……何が言いたいんだ」
「人間の体は良い。無卿をかこつようなこともないし、刀であった時には出来ないことが出来る」
互いの顔は後少しで触れてしまいそうなほど近く、目さえ逸らすことが許されなかった。
鬼丸は獲物を捕えた獣のように不敵に笑い、童子切の手に触れた。己の指と絡め、離れないように慈しむような手つきで固く結んだ。
童子切の意識が手に向かった途端、隙ありと言わんばかりに視界が覆われた。
互いの唇が触れ合い熱く重なる。思ったより鬼丸の唇は温かく柔らかい。舌で唇を舐められると、肉が蕩け合うように温度が上昇し角度を変えて何度も触れさせる。
っは、おまえ
漸く唇が離れると、息を吸った。人間の体を得てから鬼丸と口付けを交わしたことなど数えるほどしかない。なのになぜか手慣れたその行為に戸惑いつつも、未だに口付けは慣れない行為だった。
「そんな目で見るなよ」
お前が突然そういうことするから」
「そんな物欲しそうな顔されたら我慢できなくなるだろう」
「そんな顔してない」
息を整えながら童子切は鬼丸を睨みつけた。だが向かい側の男は素知らぬ顔で悠然としていた。
そんな態度に内心苛立ちを覚えながら童子切は立ち上がった。
「何だ、もうお開きか」
「お前とは付き合ってられん」
「冷たい奴だな」
「ふん、お前なんか寝坊すればいいんだ」
「それはお前だろう」
睨めつくように鬼丸を見て足早に去る。でないと向こうが何をしてくるかも、自分もどうなるかも分からず動揺を表に出してしまいそうになるからだ。
どこか楽しそうな背後からする男の声が頭の中で響きながら、先程触れられた手を握る。
わずかに残る体温と感触にまた熱が上昇するのを童子切は感じた。

 

 

Nightmare Counseling

待つ宵、黒い帳が空を飲み込もうとしている頃。
本丸の玄関には複数の刀剣男士が集っていた。全員武装を身にまとっており誰もがその顔には覇気が感じられるものだった。
「みんな刀装は大丈夫ー?投豆兵ちゃんと持った?」
粟田口の短刀、信濃藤四郎が甲斐甲斐しく部隊員たちに確認する。しっかりしているところは流石粟田口といったところか。ちなみに来歴から妖物退治をした経験はない。
「おー、準備万端だぜ。いつでも行ける。鬼退治は専門外ではあるけど…まあ何とかなるだろ」
柄の長い槍を抱え今度は御手杵が若干気の抜けていながらもどこか頼もしさが感じられる返事をする。こちらも妖物退治の経験はない。
「よっしゃー!鬼退治だー!行くぜ!じっちゃんの名にかけて!
部隊員の中で最も張り切った様子の獅子王が元気よく鼓舞する。妖物退治の経験に関しては、元主である源頼政が鵺を退治した恩賞として下賜された刀であるが本刃自体が妖を斬ったことは無い。しかし、全く妖に関係ないとも言えない来歴を持っていてこれから鬼を討ちに行くという興奮と、純粋に戦に出られるという喜悦で相手が何であろうと怖めず臆せずといった様子だ。
そんな三者三様、ひいては喧喧囂囂としている三振りを少し離れたところで眺めているもう三振りの刀剣男士がいた。
「彼らは威勢がいいねえ」
源氏の重宝​────髭切が感心したように言う。大雑把を好む飄逸な禀質のこの刀は、向こうの三振りのいづれにも当てはまらず至極落ち着き払っていた。
「今さら相手が何であろうと怯む連中もいないだろう。もっとも、鬼を切るのはおれの役目だが」
朗らかな表情の髭切とはうってかわり気難しい表情をしているのは───いつもと変わらないのだが​───粟田口の太刀で、天下五剣の一つに数えられる鬼丸国綱だった。この本丸にやって来たのも今の主の元に鬼が来る夢を見たからであった。今となってはようやく手に入れられた安住の地として居着いているが、鬼丸にとっての重要仕事は鬼を切るということなのはどこにいようが変わらないものだった。さらに、今回の出陣ではこの部隊の長を審神者より直々に任命されたのだった。まるで、「存分に鬼を狩ってこい」と言わんばかりの配置だ。
「鬼といっても本物の鬼ではないけれどね。鬼に扮した時間遡行軍、つまり鬼の贋物ってわけさ」
「ふん、そんなことはとうに知っている」
髭切が鷹揚と指摘すれば、鬼丸はつまらなさそうにそっぽ向いた。髭切の言う通り今回彼らが討ちに行くのは本物の妖としての鬼ではなく、あくまでも鬼に扮した時間遡行軍である。本物ではないということに鬼丸も正直のところ落胆を隠せないでいたが、今はなんであれ鬼の姿をしていようがただ敵を倒すのみと気持ちを切り替えているのだった。それに扮装だろうと鬼の姿をしているのならそれはもう鬼本物と同然だろうというある種の詭弁じみた言い分も胸中に秘めていたが、それはもちろん他の刀に言うことはなかった。
「まあ、鬼退治は武家の役目だから────ね、童子切?」
髭切がそれまで一切口を開くことなく伏し目がちで物思いに耽っていた最後の一振り、童子切安綱に問いかけた。髭切に話しかけられたことに数秒経て気づくとはっとしたように顔を上げた。
「悪い、考え事をしていた」
「考え事とは珍しいね」
「今になって怖気付いたか」
「ああ、違う違う​────鬼退治は武家の役目、だったか。そうだな。昔は鬼に限らず妖などの人智を超えた存在の対処は力あるものに任されていた」
まだ武士が大々的に台頭する前、平安の都では妖が跳梁跋扈していたがそうした輩を膺懲するために時の権力者、つまり朝廷に仕える者である武家の者たちがその役目を担っていた。武家の者は武芸に秀で、当時の絶対的存在である朝廷に仕える者たちに妖退治を任せるのは至極当然のこととも言えるだろう。
「そう考えると、鬼切りの逸話があるのも武家の刀である俺たちの特権とも言えるね」
「はは、確かにそうだな」
この三振りにはそれぞれ鬼を切った逸話がある。宇治の橋姫の腕を切った髭切、主が夢に魘される原因となった鬼を切った鬼丸、そして丹波国大江山に住まう酒呑童子の首を切った童子切。それぞれ性質の違う鬼を切っているが、どの逸話も銘々の名の由来に、あるいは存在や価値を確固たるものにする標榜となっている。刀にとって切ったものとは、己を構成する要素の一つとしてある意味愛着すら覚えるものでもあるがそれと同時に己を悩ませるものともなった。童子切にとって旧怨の敵である酒呑童子の首を刎ねたことこそが輝かしい経歴の第一歩であり己がいかに業物であるかを証明する誇りであるのに、この鬼を切った故に受けてしまった"傷"への悲嘆という矛盾した感情も抱いていた。徳川、豊臣などの天下人には忌憚され、傍に置かれることはなかった。その後、徳川秀忠の娘、勝姫の松平忠直への輿入れとして越前松平家へと移るが忠直は乱行を繰り返し流罪、勝姫は家の問題に強く干渉したが故に衰退を招く原因となってしまった。それらを知ったものたちは口々に言った。「童子切の鬼を切った鬼の呪いのせいでああなったのだ」と。妖物を祓った刀はいくらか妖気を帯びてしまうことも珍しくない。しかし、本当に鬼を切った呪いのせいで招いた結果なのか、それともただの偶然の重なりなのか。それがわからない以上何の答えも出せなかった。この境遇は鬼丸も同じだ。鬼を切ってしまったが故に持ち主に不幸を齎す刀だと言われ遠ざけられた。一定の場所に居着くということには誰よりも敏感だ。だからこそ、この本丸もようやく見つけた己の居場所だと安心しているのかもしれない。童子切は、それが己の呪いのせいであれ何であれ一度持ち主となった人間を再び不幸にさせてしまうようなことだけは避けなければいけないと思った。遠ざけられるのではない、傍で仕えて守り抜くために。その誓いを胸にこの本丸に刀剣男士として顕現したのだから、絶対に信念は曲げてはならなかった。
「​────俺たちは"真正面から"鬼を殺すことができるか?」
始原、かの源頼光とその配下たちが大江山へ都を騒がす鬼を征伐しに行ったとき。山伏に扮した頼光らが鬼たちの宴に紛れ込み、神便鬼毒酒を飲ませて寝首を搔くという手筈で行われた。大将酒呑童子の首を刎ねたとき、酒呑童子は「鬼に横道なきものを」と言った。確かに頼光らが行ったことは言うなれば騙し討ちと呼ばれるものだった。酒呑童子らは人の渡世を踏み荒らす悪鬼であり、為政者(アジテーター)の敵であった。善悪の区別など人側に立つか、妖側に立つかで変わるものだがそれでも童子切にとっては空恐ろしいものでもあった。刀剣男士である己に、今となっては自らこの手で己自身を振るうことができる肉の器でどう鬼と渡り合うことができるのだろうか。はたして、正々堂々と戦い抜くことはできるのか。童子切の胸裡に翳が落ちそうになった時、不意にその声によって打ち消された。
「​───できるよ。僕たちならね」
髭切の琥珀色の双眸が童子切を捉えた。その瞳にはこれ以上ないほどの自信が表れていた。
「今さらそんなことを気にしているのかお前は。ただ向かってきた鬼を切り伏せるだけだ」簡単なことだな」
鬼丸も同じように曇りのないその瞳で言い放つ。ふたりの言葉を聞いて童子切は一番大切なことを忘れていたことに気づいた。
「そうだ、そうだった。ひとりじゃない、お前たちがいるんだ」
ひとりでは不可能なことでも、仲間がともにいるなら出来るかもしれない。なぜそのことを失念していたのかと童子切は己を深く恥じ入る。
「人間ではできなくとも、おれたちは刀だ。刀でなければできないことがあるだろう」
言い方はぶっきらぼうだが、その心根に優しさを含んでいることを童子切は誰より理解していた。この刀はそういう奴だと忘れるはずがなかった。
「本当にその通りだな……俺たちにしかできないこと、やってみせよう」
ひとつ、柔く笑ったあと眦を決したように童子切は空を見上げて、息を吸う。夜の気配、夜の匂い、そして目を閉じれば今にも妖の気配、血の匂い、戦の匂いが漂ってくるのを容易に想像できた。
鬼丸が向こうにいた三振りを呼び寄せる。もうすぐ出陣の時間だ。
​────逢魔時。日が沈んだ後の、人ならざるものと出会うという時間。太陽が沈み、月が歩み寄ろうとしている。すぐ傍までやって来ている、この二つとしてない夜が。
​─────さあ行こう
都へのゲートが開かれた。鬼狩りたちの夜が、始まる。

無題

 

  帰宅すると”彼女”が駆け寄ってきて、俺の顔を見るなりぱっと嬉しそうに笑った。 

「おかえりなさい、お仕事お疲れ様っ」

出迎えてくれた”彼女”は犬のようで、耳と尻尾が生えているのが目に浮かぶ。

やはりいつ見ても可愛い。仕事の疲れもこの可愛さだけで癒される。”彼女”――恵はどこからどう見ても美しい女性だが男である。所謂男の娘というやつだ。優しくて包容力があり、押しに弱いところがあるので強引に通せば大抵何でも言うことを聞いてくれる。そう、なんでも。 

寝室に直行し、ふたりでベッドに腰かけて、恵にシャワーを浴びたかと聞くと笑顔が消えた。するとさっきとは打って変わり気まずそうに俯いた。

「まだ浴びてないの…あなたに言われた通り」 

恥ずかしそうにぼそりと呟く恵に俺は顔が熱くなるのを感じる。 

頭を撫でてやると彼は嬉しそうにはにかんだ。つやつやな髪の手触りと恵の可愛さに俺も思わずにやつく。弄ぶように長い髪に指で梳かしていても、相変わらず俯いたままで目を合わせようとしなかった。 

「恥ずかしいか、って…恥ずかしいに決まってるじゃない、こんなの…こんなことするのも、あなたのお願いだからね?そうじゃなかったら聞かないから…」 

恥ずかしそうに笑いながらスカートをぎゅっと握っている。どんなに”恥ずかしいこと”でも頼みを聞いてくれるのは俺のことが好きだからだと思うと優越を感じられずにはいられない。 

優しく抱き締めて首筋に鼻先をくっつけると彼は擽ったそうに身を捩った。 

「あ、あの、におわないで…まだシャワー浴びてないから…え!?臭くても昂奮するから大丈夫って…そういう問題じゃなくて!私が嫌なの!」 

そう言われても臭いほうが昂奮するのは事実だしそもそもそれが目的だ。 

恵の肌は汗こそかいていなかったがわずかに汗のにおいがした。汗と甘い薫りが混ざってさらに情欲を誘った。ついでに味もみておこう。 

「ん…♡ くすぐったい…うう」 

何か言いたげだったが押し黙ってしまった。首筋を舐めると汗で肌がじっとりと湿っていた。においがさっきよりも増して昂奮しているのがわかる。 

「もう…あなた、犬みたい…んおっ!!?♡♡♡」 

薄いブラウス越しに両乳首をぎゅっと抓んでやるとはしたなく喘いだ。シャワーを浴びていないので服も着替えていない。いつもはブラジャーで覆われているはずの胸も無防備なままだった。なんせ”つけていない”からだ。今日一日下着をつけずに過ごすように言ったからだ。 

「あっ♡あぁ♡乳首いじるのやめて♡やめてよおっ♡♡ 乳首ちょっといじられただけでエロスイッチ入っちゃうね、って♡ちがうのっ別にエッチな気分になんてなってないからあ♡♡服越しでも乳首探しやすいクソ雑魚デカ乳首になったのはあなたが散々いじってきたせいなのに♡♡♡」 

爪でかりかりとひっかいってやると恵はさらに快感に身を震わせた。乳首も一瞬で硬くなっていたので今度は捏ねくり回してやる。 

「あっあぁ♡♡♡」 

次はぴんっと弾く。 

「おっ!?♡♡♡」 

そしてさらに押し潰す。 

「ふっんんっ♡♡♡」 

どんな弄り方をしてもそれに応えて感度が高まっていっているのがわかる。今まで散々開発していただけあって彼の乳首は感度良好だった。そこで乳首を外側に強く引っ張ってやる。 

「あぁっ!?いだっんんぁあああ♡♡♡♡♡」 

痛がっているのに顔は恍惚一色だ。立派なマゾメスだと言うしかなかった。 

「うう、あんまりいじるとイっちゃいそうだからもうやめて…あっ!?ちょっとっ…」 

イきそうだと言う言葉を聞いて俺は恵の胸に顔を埋めた。女性ホルモンの影響で膨らみがあるとはいえ、彼女の胸は決して豊かな乳房と言えるものでもないのに、散々弄ってきたせいなのかわずかにやわっこい感触がする。そしていい匂いだ。胸を揉んだりふにふにと頬擦りして愉しんでからブラウス越しの乳首を唇で優しく食む。 

「ふっ…んん…♡ほ、ほんとにそれ…やめて♡♡ほんとにイっちゃいそうだから♡♡」 

彼は俺の頭を掴んで離そうとするが快感のせいなのか力が弱々しく、引き離すことはできないようだった。それをいいことに唇で乳首の感触を確かめた後は乳首の味を堪能することにした。乳首を舐め紗ぶり、穿るように吸い尽くす。これだけで絶頂に導けることはこれまでの経験で折り込み済みだった。 

「おっおぉ~~~~♡♡♡だめだめだめぇ~~~~~っ!♡♡♡♡♡♡乳首じゅるじゅる吸われたらイっちゃうって言ってるのに♡♡♡ こんな恥ずかしいおっぱい感じたくないのにい♡♡♡乳首吸われてイきたくないっ♡♡♡」 

唾液で濡れたブラウスが透けてデカい乳輪とぴんと立った肥大乳首が丸見えだった。 

「ひいいいんっ♡♡♡こんなに乳首大きくしてっ…♡♡♡乳首がすっかり敏感になっちゃって服にこすれるたび声出ちゃうんだからねっ♡♡♡」 

少し非難するような視線を送ってくる恵を無視すると、反応がないとわかって今度は拗ねた顔をした。 

「誰のせいでこんなことになったと思ってるのよっ♡♡♡っあ…」 

ぎゅうううっ♡♡♡♡♡ 

「ひぃいいんっ♡♡♡乳首吸いながら引っ張るのだめぇ♡♡♡ただでさえ乳首大きくて恥ずかしいのに、そんなに引っ張ったら触れられただけで情けないオホ顔晒しちゃう下品長乳首になっちゃいますっ♡♡♡♡♡あんっ♡♡♡認めるからあっ♡♡♡こんなにおっきくて下品な乳首になったのは私が毎日乳首オナニーしてたからです♡♡♡あなたのせいにしてごめんなさいっ♡♡♡反省しますっ♡♡♡反省しますから乳首もう引っ張らないでぇ♡♡♡」 

散々弄って真っ赤に腫れた乳首をぴんっ♡と指で弾くと「オッ♡♡♡」と啼いて体を仰け反らせた。ブラウスのボタンを外して前を開かせると心なしかわずかな”双丘”を成しているものが現れた。汗でじっとりと濡れた胸に触れると白く瑞々しい肌が掌に吸い付いてきて心地が良い。胸を揉んだり乳輪を指先でなぞったりと暫し優しく愛撫していると小さく喘ぎ声を漏らしながら身悶える。

「ああっ♡♡♡イっちゃうっ♡♡♡わたしもうイっちゃうっ♡♡♡イってもいいっ?♡♡♡」

はあはあと息も絶え絶えになりながら必死に訴えかけてくる。さしずめ、ご褒美を前におあずけを喰らっている犬のようだ。恵がイくのにも何をするのにも俺の許可を求めてくる 。イくことを許すとそう経たないうちに恵は絶頂の予感に体を震わせていた。

「イグっ♡♡♡イクイクイクっ♡♡♡乳首だけでクリちんぽからミルク出ちゃう♡♡♡おほぉ~~~~~~♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

恵はガクガクと太腿を震わせて、強い快感に仰け反りながら絶頂した。こちらに股間を突き出すような体勢になっているせいかスカートの上から膨らみが主張し、白い滲みができているのが見てとれた。まったく触ってもいないペニスから射精してしまうことは毎度のことだが、恵はいまだに慣れていないようでしばらくして息を整えて落ち着くと恥ずかしそうに顔を赤らめ始めた。

「やだ…恥ずかしい…♡わたしまたおっぱいだけでイっちゃった…♡♡こんなの恥ずかしくて嫌なのに…」

今にも泣きそうな様子で顔を覆うのを見るとなんだか居た堪れなくなって思わず隣に座って俺の肩に凭れさせると、恵はそのまま身を任せて撓垂れ掛かった。頭を撫でてやるとしばらく肩に頬擦りしていたが、やがて恵がもじもじと足を擦り合わせていることに気づいた。"あれ"を欲しがっている合図だ。恵の手が俺の股間に伸びてきてゆっくりと撫でさすった。

「ねえ…♡おちんぽ欲しいの…♡あなたのおちんぽで慰めて…♡♡」

恵は艶っぽい表情でひたすら媚びてくる。このまま待てをし続ければ発情メス顔で顔に擦り寄りながら必死に懇願することは以前からの経験でわかっていた。しかしあまり我慢させるのも可哀想だし、こちらもいつもより昂奮しているので期待に応えてやろうと立ち上がった。彼の顔の前で仁王立ちになると、ベルトを外して前を寛げる。 

ボロンっ♡♡♡♡ 

「あっ…♡♡♡すごい臭い…♡♡♡」 

勢いをつけて出てきたソレは、血管が隆起して赤黒く腹につきそうなほどそそり立っていた。自分で言うのもなんだが、大きさは平均以上だ。自分で言うのもなんだが、長さ太さともに申し分ない。今日一日働きづめだったことに加えて、何日も洗ってないのでチンカスがこびりついていて激臭を放っている。普通の人間ならば顔を顰めて目の前に出されることすら頑なに拒否するような様相だが、マゾメス男の娘にとっては”ご褒美”以外の何物でもないのだ。

「んっ♡♡♡くっさぁい♡♡♡♡何日も洗わずにおしっこやザーメンで熟成されたチンカスに鼻がもげちゃいそう♡♡♡でも…とっても昂奮する♡♡♡」

うっとりと顔を赤らめるその姿は恋する乙女のようなのに、可愛らしい顔とグロテスクな男性器が非常にちぐはぐだ。まあ、ただ単に奉仕を前に発情しているだけのメス顔なのだが。 

そこで、股間を恵の胸元にくっつけると勃起したペニスがちょうど硬く勃った乳首を潰した。 

「ひゃあっ!♡♡♡おっぱいにおちんぽぐりぐりだめっ…♡♡♡汚いチンカスとガマン汁でマーキングされてる…♡♡♡私のおっぱい臭くなっちゃう♡♡♡なのにすっごく気持ちよくて、あなたに汚されてるって思うと幸せな気分になっちゃう♡♡♡♡」 

ガマン汁によって濡れてる乳首が潤滑剤となって亀頭を擦りつける動きが滑らかになっていく。柔肌と硬い乳首の感触であっという間に射精感が高まっていく。胸元に思いきり精液をぶち撒けたい気分になったのでペニスをさらに激しく擦り付けながら、竿を扱く。 

「んおっ♡♡♡おっ♡♡♡おっ♡♡♡乳首しこしこ気持ちいっ♡♡♡もっと♡♡♡もっとおちんぽ擦りつけて私のおっぱいで気持ちよくなってぇっ♡♡♡あなたのドロドロザーメンで私のおっぱい汚してぇ♡♡♡あああああっ♡♡♡♡」  

びゅるるるるっ♡♡♡♡♡どぴゅっ♡♡どぴゅっ♡♡♡

噴射された精液が彼女の胸を汚していく。黄ばんだ精液と白い肌の対比、チンカスと精液の青臭さがさらなる昂奮を煽る。股間には自分と同じ”モノ”がついているというのに少女のようなしなやかな体を穢す背徳感に幾度となく行為を重ねても慣れることはない。 

すると、吐精して萎えていたペニスが時間が経つとともに次第に再び硬くなってきたのを感じた。恵は乳首に精液を塗りたくりながらそれを見て艶然に笑った。 

「出したばっかりなのにもう硬くなってる…♡すごい♡♡じゃあ今度はお口で気持ちよくしてあげる♡♡」

そう言うと恵は勃ち始めたペニスの亀頭をちろちろと舌で舐めしゃぶった。

「んおっ♡♡♡♡くっさいおちんぽ様のチンカスお掃除っ♡♡♡わたしのお口で綺麗にしてあげるっ♡♡♡♡」

今度は喉奥まで咥え込むと口をすぼめて、いわゆる"ひょっとこフェラ"の状態になった。

ずぞぞぞぞっ♡♡♡♡じゅぶぶっ♡♡♡じゅるるるっ♡♡♡♡じゅぶぶぶぅ~~~♡♡♡♡♡♡

両手で自身の乳首をシコりながら凄まじい音を立てながらしゃぶる様子は"搾り取る"と言っても過言ではないほどであまりに淫靡な光景と、ペニスに与えられる暴力的な快楽にあっという間に射精に上り詰めそうになる。

すると、恵は射精が近いことを感じ取ったのか呆気なく口を離した。

「まだイっちゃダメ♡♡♡次出すときはこっちにお願いっ♡♡♡」

そう言うと恵は尻をこちらに向けてそこを指さした。

「ね…あなたのその素敵なおちんぽ、私にちょうだいっ…?♡♡♡」
恵は俺の答えを聞くと、こちらに背を向けてスカートをたくし上げた。すると、下着からはみ出た彼女の”モノ”が露わになる。完全に勃起したそれはスカートを持ち上げており、白濁で汚れているのがわかった。そして、彼女が今何を望んでいるのかもすぐに分かった。
「じゃあ、その逞しいガチガチおちんぽで私のお尻をハメて……♡♡♡」
恵は手をついてアナルをこちらに見せつけてきた。くぱぁっと指で開かれて期待に蠢いているアナルは何度見ても淫猥でエロくて興奮がさらに煽られる。
「はっ……♡はあっ♡」
恵の痴態を見てこちらも完全に勃起していたのですぐに挿入できた。尻を掴んで腰を打ち付ける。
ぱんっ♡♡♡♡ぱちゅっ♡♡ばちゅんっぱちゅっ♡♡♡
「あんっあんっ♡おっきいっ♡♡♡♡♡ぶっといおちんぽでアナル穿られるの好きぃ♡♡♡硬い亀頭がケツマンコ広げてくるのぉ♡♡♡」
ぶちゅっ♡ぶちゅん♡♡♡ずぼっ♡♡♡♡

激しく打ち付けて腸壁を押し広げていく感覚に脳内麻薬が大量に分泌される。腰は一向に止まる気配を見せず、レオーネさんの尻の穴を貪り続ける。
「お”っおおお♡♡♡♡♡」
恵の方もすっかりケツハメされるのが大好きになってしまい、最初は抵抗していたはずのアナルセックスも今では自分から求めてくるようになっていた。何度もちんぽを挿れたせいで中はだいぶ緩くなっており、腸液と我慢汁で濡れて滑りやすくなっている。しかし締まりはキツキツのままで俺のペニスをきゅうっと締め付けてきて、それがまた心地よくてたまらなくなる。
「おっ♡んおおおっ♡♡♡♡♡」
恵がメス声を上げ始めたので、こちらもラストスパートをかけることにした。腰をしっかりと掴んで、より勢いよく打ち付ける。

びゅるるるるるるーーーーーーーーっっ!!♡♡♡♡びゅくびゅくっ♡♡どぷどぷっ♡♡♡ぶぴゅっ♡♡♡♡

大量の精液が腸内に叩きつけられるが、まだ萎える気配はない。恵は一度の射精では満足できない体なのだ。
「おっ♡おんっ♡♡♡♡♡しゅごっ♡♡♡熱いのでいっぱいになってるぅ♡♡♡」
恵はベッドに手をついたまま尻を突き出した体勢で、未だにケツハメされた快感に浸っていた。突き出された尻から見えるアナルはすっかり俺の形を憶えていて、ひくひく痙攣しながらぽっかりと穴を開けている。腸壁は精液を一滴残らず搾り取ろうと蠢き、尿道に残っていた精液も残さず吐き出させた。
「はぁ……♡♡♡おなかの中にいっぱいザーメン入ってる♡♡♡♡」
恵は恍惚とした表情で腹を擦っている。彼女も俺が射精したのとほぼ同じタイミングで2度目の絶頂を迎えていた。軽くイったのか、床には白い水たまりができている。どうやら彼はケツハメされながらトコロテンしてしまったらしい。まあ、彼女のアナルは既に排泄器ではなく立派な性器に成り下がっているわけだが。
「ケツハメ最高だった♡♡♡♡ありがとう♡♡♡」
恵は振り返ってこちらに微笑むと、まだ硬いままの俺の息子にキスをした。
「もう少しだけあなたのおちんぽをしゃぶらせて?♡♡♡だってこんなに元気なんだもん♡♡♡♡いいでしょ?♡♡♡」
再び四つん這いになる恵のアナルは物足りなさそうにひくついていた。
ずぷっ♡じゅぽっじゅぷっ♡ぐちゅっ♡♡♡

すっかり柔らかくなっているアナルは簡単に俺を受け入れる。既に3、4回射精しているというのに萎える気配はない。このまま永遠に彼女の体を貪り続けたいとすら思う。そして、それは彼女も同じ気持ちだろうと感じることはできるのだ。
「んおっ♡♡♡♡あっあっあ”っ♡♡しゅごれすっ♡♡♡」
恵の喘ぎ声が部屋に響く。先ほどよりもさらに激しく、荒々しく彼女を突く。
ぱんっぱんっぱんっぱんッ♡♡♡♡どちゅどちゅっ♡♡♡じゅぶぶっ♡♡♡♡♡
「おっほおおっ♡♡♡♡♡しゅごいおちんぽっ♡♡♡♡またイっちゃゅううううううっっっっ!!♡♡♡」
びゅるるるるるるるーーーーーーっっ♡♡♡♡♡♡ 3度目とは思えないほどの量と濃さの精液を腸壁に直接叩きつける。恵のペニスからも勢いよく精液が放出されて、彼女の胸元や顔にかかっていた。
「お”っ♡♡♡おなかのなかあちゅい……♡♡♡♡♡」
尻からペニスを抜くと、アナルはぽっかりと開いていてそこからとろとろと白い液体が流れ出してきた。恵は四つん這いのままその様を見て笑っていた。どうやらだいぶアナルセックスの虜になってしまったらしい。ここまで来ればもう彼女は俺から離れられないだろう。俺はこれからも彼女にこうやって愛を注いで、どんどん俺無しではいられない体に作り替えていくつもりだ。
彼女の耳元で愛してると囁くと、彼女はとろけた顔で笑った。
「私も……あいしてる♡♡♡」

On Holy Night

 駅の改札口を抜けると、雪が降っていた。
顔を上げると鉛を溶かしたような灰色の空が広がっている。絵具で塗りつぶされたかのような不自然な色だった。虚空に向かって息を吐けば、白煙のように昇って消えていく。
改札口から押し寄せる人の波に乗って、バス停に向かって歩き始めた。随分遅くなってしまった。
スマートフォンの液晶には"10:16"を表示していた。この時間なら何とか終バスには間に合うだろう。
駅ビルの横を歩くと目につくのは赤や緑、金を基調としたオーナメントだった。今日は12月25日。クリスマスだ。
日付を見なくとも今日がクリスマスであることは自明だった。
街の至る所からクリスマスソングや第九が流れ、クリスマスツリーの電飾が目にとまり、手を繋いで歩く男女と嫌というほどすれ違うからだった。
クリスマスと言えば恋人と過ごす若者は多いのだろうが、自分とは無関係の話だった。それに聖夜だというのにアルバイト三昧である。
他のバイト仲間はクリスマスということで休みを希望している者が多く居た。さしずめ自分はその補闕 である。聖なる夜にカップルたちが睦み合っている中、独り身は寂しく仕事に没頭するしかないのだ。
同じくシフトが入っていた仲間から飲みにいかないか誘われたがやんわりと断った。何となくそういう気分にはなれなかったのだ。

緩慢と揺れ動く人の列に肩を窄めて歩く。クリスマスはキリストの降誕祭だ。つまり誕生を祝う祭りなのだ。こうして見ると死者たちが神の裁きを受ける為に天国への門に向かっているように見えてくる。ならばカップルは地獄に堕ちるのだろうか。
そんなことを思って、出そうになった乾いた笑いを押し殺す。何で自分がこんなに僻んでいるのか不思議に思う。世の男女が何をしていようが関係ない。関係ないはずだ。
停留所の前に止まってスマートフォンを出すと、メッセージアプリを表示させた。
そして何を思ったのか通話画面を開く。画面の上部にはかつて付き合っていた女の名前があった。
彼女とは一か月前に別れた。一年近く付き合ったが自分にしてはまあまあ続いた方だろう。
どっちかと言うと恋愛に関しては淡泊だ。誰かを本気で好きになったことがないし、自分から積極的にアプローチした相手もいない。色々な女と付き合ってきたが、どの女も本気で入れ込むことはなく付き合っては別れるの繰り返しだった。
だが今回の女は違った。大学で同じゼミの仲間で、初めは向こうから付き合って欲しいと告白された。
最初は毎度の如く漠然と日々を過ごしていたが、次第に彼女に情が湧くようになった。優しくて、献身的で、一緒に居て安心できた。今まで付き合ってきた女とは全く違う感情を覚えた。
ずっと一緒に居られると思っていた。だが、それは不可能だった。突然別れを切り出された。「他に好きな人ができた」と言った。その時の彼女の表情はとても申し訳なさそうに笑っていた。ピントのずれた視界の中で彼女が「ごめんね」と言って去っていくのを眺めることしかできなかった。
長いようで短い一年だった。あの時別れていなかったら自分も、すれ違うカップルたちのように笑っていたのだろうか。
幸いブロックはされていないので連絡を取ろうと思えば取れる。電話も着信拒否されていなければ繋がるだろう。だがそんな勇気はなかった。今さら彼女を追うことなど、自分には許されていないのだ。

バスは意外と人が乗っていた。聖夜といえども、仕事をしている人間は多い。
トーク欄を見つめて溜め息を吐く。気軽に誘える友人は少なくないが、この時間だ。恋人がいる者も居れば、既に友人や家族と過ごしている者も居るだろう。
こんな時間に連絡をしたところで相手に迷惑になるだけだろう。手持ち無沙汰になってスマートフォンをポケットにしまう。何をすることもなく窓の外をただ眺めた。
バスを降りてアパートまで歩く。最寄りの停留所からアパートまでは歩いて5分ほどだ。朝、急いでいる時は短く感じられるこの道もなんだか今はとても長い道のりのようだった。
人通りはほとんどない。ところどころ電灯が道路を照らしている。眩しい白い光が、一人さびしく歩いている自分を嘲っているような気さえする。
重い足取りで階段を上り、部屋の前に着くと鞄から鍵を取りだす。
鍵穴に入れて右に回して扉を開けると靴を脱ぐこともなく、玄関の地板に倒れる。疲れた。今日はさっさと寝たい。でも風呂に入らないといけない。あぁめんどくさ。
立ちあがって靴を脱ごうとした時、ポケットの中から音がした。スマートフォンの通知を表示させると、"鬼丸国綱"の名前があった。
内容は絵文字もスタンプもなく、ただ"帰ったか?"の五文字。何て簡素なんだろうか。あいつらしいと言えばらしいが。思わず笑みが零れる。
きっとあいつのことだから、クリスマスに彼女の居ない独り身である幼馴染を心配してのことだろう。一か月前の出来事から傷心の自分に慰めのつもりか気持ち悪いくらい優しくしていたので尚更だろう。
すぐさま返信をする。
"帰った。お前もクリスマスソロか?笑"
それにしてもこんな時間にわざわざ連絡を寄越してくるとは律儀なやつである。確かあいつも今は恋人が居なかったはずだ。まぁ居たらこんな時間に連絡なんてしている暇はないだろう。
再びトーク欄を表示させる。なんとなく下にスクロールさせると、"大包平"という文字が目に留まる。
大包平、鬼丸と同じく幼い頃からの付き合いであるこの男は昔から己を悩ませる種でもあった。
一つ年下でありながら既に小学生高学年で背を抜かされてしまった。富裕層の出身であってか、若干箱入りなところがあってどんなこともそつなくこなすハイスペック男だ。強情でうるさい奴だがどことなく品があって女にもモテる。出会って数年ほどはまだ素直で可愛げがあったが、背を抜かされたことが恐らく始まりだったのだろう。今となっては顔を見るのも億劫な男だ。
普段は連絡を取ることなど、ほとんどない。だが、今ばかりは誰かと話したいと思った。
別にこいつじゃなくても良い。鬼丸と話せばそれで済む話だ。いつもなら絶対に話したいだなんて思わないだろう。
それなのに、考えていることに比例するように指が動く。トーク画面を表示させてメッセージを打ち込む。
"あいたい"



自分は何を書いているんだ?"あいたい"?どうして?自分が?こいつに?
男にあいたい、だなんて普通は言ったりしない。自分はどうしてしまったのだろうか。クリスマスだからと言って気分が高揚しているのだろうか。
メッセージを咄嗟に消そうとして、指が送信ボタンにずれる。
押してしまった。しまった。何をしているのか。こんなもの見られたら堪ったもんじゃない。
削除しようとして、音が鳴る。画面の下側にメッセージが表示される。
「はや…!?」
レスポンスの速さに思わず声が出てしまう。こんなに直ぐ返信するなんて、こいつは何をしているのか。暇なのだろうか。
"会いに行く"

何だと?会いに行く?誰に?どこに?どうして?
たった五文字のメッセージに混乱する。言葉の意味は理解できるのに意図が理解できなくて、どうしたらいいか分からない。何故この男はこうなのだろうか。昔からそうだ。この男に対して何かを求めるとこの男は常に全力で応えようとする。この男は自分に出来ないことをさも当然かのようにやってのける。
どうしてただの幼馴染の為に、こんな時間に会いに行こうと思えるのか。
その思考が理解できないし、その男に結局甘えてしまう自分の浅ましさも嫌になる。
やっぱり気に入らない。誰かの為に必死になれるこの男のまっすぐさが。
再び音がして画面に表示される。鬼丸からだ。
"うるさい。寂しいなら、今からお前ん家に行ってやろうか"
さっきと変らず顔文字もスタンプもない。これだけだと冷たい感じがするが、幸い鬼丸はこういうスタンスであることを熟知しているため何とも思わない。寧ろ、気を遣っているつもりなのだろう。
こんな時鬼丸の言葉の意図は簡単に理解できるのに。なぜあの男は分からないのだろうか?普段連絡をとらないから?それとも、あの男の本当のことを今まで理解しようとしてこなかったから?
考えてもわからなかった。

数十分してチャイムが鳴った。年季の入ったボロアパートなのでもちろんインターホンなどない。
恐らく大包平だろう。ああ本当に来てしまったのか。
扉の前に立ち、ドアスコープを覗く。見知った赤色の尖った髪。やはりあいつだ
どんな顔をすれば良いのか分からなくてドアノブに手が伸びなかった。開口一番、なんて言えばいい?
「よく来たな」…ってなんだよ。「会いたかった」…恋人かよ。「来てくれてありがとう」…これも何か違う。
ああ、やっぱり会わせる顔がない。これも"あいたい"だなんて送ってしまった自分のせいだ。数十分前の自分のミスを憎んだ。
童子切!居るんだろう!」
「声がでかいよ!近所迷惑!」
夜だと言うのに周りを憚らない声に思わず扉を開けてしまう。こんな時間にでかい声を上げたらお隣さんから苦情が来るかもしれない。流石にそれは勘弁願いたい。
「居るんじゃないか」
「……あー、うん…まぁ」
目の前に息を切らして立つ男。コートを一枚着ただけの出で立ちに慌てて出てきたのがすぐに分かった。
何だか突然申しわけなく感じてますます居心地が悪くなる。
「なぁ…何で来たんだよ?俺確かにあんなの送ったけどさ…」
「?あんなのとは?」
「だから……"あいたい"って送っただろ!あっあれは別に本心とかじゃなくて、なぜか勝手に打ってしまったというか…消すつもりだったけど間違って送っただけだ!」
弁明するつもりが、これじゃあますます墓穴を掘っているような気がしてならない。
何を言っているのだろうか。やはりクリスマスだから気分が高揚しているのだろうか。酒は飲んでないから酔っているわけではない。
「俺に会いたかったのか?」
「だから違うって…!俺、なんであんなの送ったんだろう…お前なんかに会いたいとかおかしくなったのかな…お前はお前で"会いに行く"とか返すし…何考えてるんだよ…本当お前のことが分からない…」
「会いたいと思ったこと以外に理由なんてないだろう。お前は俺に会いたかったし、俺もお前に会いたかった。それだけだ」
平然とそんなことを言う。よく言えるな。"俺もお前に会いたかった"だと?何だそれは。
頭の中では反論しようとするのに、言葉が喉に引っかかって出てこない。
「…お前、恋人と別れたと聞いたが」
「何で知ってるんだよ!?」
「人の噂というものは簡単に広まるぞ。お前のことだから、別れた女に未練があるから俺に会いたいと思ったんじゃないのか」
まるでお前の考えてることなど全てお見通しだと言わんばかりに話してくる。面と向かって言われたその言葉に、胸の奥に押し込んでいた感情の堤が決壊して氾濫しているかのような感覚に陥った。
「…俺、好きだったんだ」
「…………」
「初めてこんなに誰かを愛おしく思ったんだ。今まで付き合ってきた女は何とも思わなかったのに。ずっと一緒に居たいって…でも彼女はそうは思ってなかった。やっぱり俺が悪いのかな…今までの彼女を大切にしてこなかったから、罰が当たったんだろうか…もう戻ろうと思っても前には戻れないって…」
一ヶ月間、胸の奥で鍵をかけて閉じ込めた感情を出してしまった。誰にも曝してはいけないと思った。だけど、何故かあろうことかこの男に言ってしまった。こんなみっともない姿を、気に入らない幼馴染に見せてしまった。

だけど情けないとか、悔しいとか思う以上に彼女への想いが止まらなかった。改めて自分はあの時の恋を失ってしまったのだと痛感した。二度とあの愛しい日々は帰ってこないのだと感じる。
そう思うと眼頭が熱くなって咄嗟に俯いた。涙が出そうだった。20を越えて泣くなんてみっともないが、涙は引っ込みそうにもない。こんなところを見られるなんて、この男はなんて思うだろうか。彼女に未練があったことを指摘しただけで、目の前で泣かれるなんてたまったものじゃないだろう。
本当に馬鹿だ。こんな姿見せるなんて。クリスマスだから今日はちょっと情緒不安定になってるらしい。全部クリスマスのせいだ。

童子切…こっちを向け」
頭上から静かに声がする。だが、顔を上げる気なんて起きなくて俯いたまま無視をした。
数秒のあと、影が動いて背中に腕が回され一瞬のうちに体温が上がる。
顔は無理やり上を向かされ目の前の男の肩に収まった。身体と身体が密着して身動きがとれない。力が強い。振り解けない。あったかい。これどういう状況?
色んな感情が頭の中で飛び交う。えっなにこれ?
「何どさくさに紛れて抱き締めてんの…」
「慰めだ。悲しい時は誰かの体温が恋しくなるだろう」
そうかもしれないが、何でこいつに抱擁されなければいけないのだろうか。今すぐ離れたいのに、力が入らない。振り解こうと思えば振り解けるかもしれない。でも、振り解けない、振り解きたくない。
普段だったら顔ぶん殴ってやるぐらいするが、今だけはこの体温を手放したくなかった。
体格差があるせいか、抱き合っている、というよりは包まれている、という表現の方が的確なんじゃないかと思う。屋外だが、急いで来たからか心なしか温かく、思わず安心してしまう心地だった。暫くはこのままでいたい。この、昏くて優しい抱擁をもう少しだけ味わって居ようと思った。

 


「あ、」
「どうした?」
「鬼丸に返信するの忘れてた…」
「怒ってるんじゃないか」
「あぁ…だろうなぁ…そういや、鬼丸もここに来ようか言ってたんだよな。でも…お前居るしな」
「別に呼んでもいいんじゃないか?」
「そうだな…コンビニで酒でも買ってくるか」
「それが良いだろう」
「…あ、」
「今度は何だ」
大包平………メリークリスマス」
「今更だな。…メリークリスマス、童子切

 


 どちらから求め始めたかは覚えていない。
気づいたら唇を貪られていた。
一瞬で大包平の顔が目の前に広がり生温かさを帯びた口付けをされる。大包平の唇は少し乾燥していて柔らかいとは言えなかったが、何とも言えない心地良さが体を包み一時の快楽を創り出す。肩に回されていた片手は俺の腰に回りぐい、と自分の方に引き寄せるように力が込められた。"離したくない"という哀願のような思いが感じ取られ、こちらもどうしようもなく切ない気持ちになる。無意識にといっていいほど俺も大包平の背中に両腕を回した。大丈夫だと、俺は離れたりはしないと安心させるように慈しむようにわずかに力を込めた。
回された腕に安堵したのか、それとももっと求められていると思われたのかは分からないが大包平の舌が唇を割って侵入してくる。
多少強引とも言えるそれに思わず心の中で笑った。この男らしいと言えばらしい、強引で少し不器用だが愛情が伝わってくる。そんなところさえ、とても愛おしい。
肉厚の舌が入ってきて口腔内を好き放題に駆けずり回る。まるで舌だけ別の生き物かのような動きに体の内側から次第に熱くなってくる。視界はピンぼけした写真のように曖昧になり時間が止まったかのように感じる。
唇が突然離され、外気が口の中に入ってきた。視界のピントが合うと見慣れた顔に、いつになく頬が赤らんだ大包平が目の前に居た。
「…突然すぎ」
涎が垂れているような気がして口許を拭った。まだ口の中には奇妙な感触が残っている。
「そんな顔をしても満更でもないんだろう」
口角を上げて笑ってみせる。普段見る堅実そうな顔つきとは違って狡猾な笑みに体がズクリと熱くなる。
「そんな顔されるとさ、」
期待するだろ、という言葉を飲み込んでただ大包平の顔を見つめた。きっと奴を見つめる俺の目は粘りつくような眼差しだろう。大包平は俺の意思に答えるように立ち上がると俺の背後に回った。すると抱き込まれるように両腕が回され、身体が自由を失う。大包平とは体格差があるため自然と包まれてるかのような態勢になる。
「…なんだよ?」
「お前も興奮しているだろう?鎮めてやる」
大包平の囁き声が耳にかかり擽ったさを感じる。大包平の節ばった武骨な手が俺の袴に回される。前紐を外され弄るように手が這いずり回る。手の位置といい、まさか…
「ちょ、ちょっと待てって…」
「遠慮するな」
平然とした声とは裏腹に片手が昂りを捕らえた。興奮でわずかに勃起していたそれは奴の手に触れたことにより昂りをが益々増大した。
「凄いな、もうガチガチだぞ」
「言うなって…」
何か企んでいる様な声色に顔は見えずとも悪い顔をしてんだろうな、と思いながら紅潮した顔を隠したくても大包平に抱擁されているせいで腕を思うように動かすことができない。
昂りを撫でるように五指がバラバラに動く。上下に緩慢とした手つきで扱かれる。
次第に扱くスピードが速くなり体中を電流のような快楽が駆け巡る。突如手つきが緩慢になると、尿道口をなぞるように撫でられびりびりと痺れるような感覚が体を襲う。亀頭を指で擦られるとすぐにでも達してしまいそうになる。
「あっ……ん…」
「もっと声を出してみろ」
「むりに…決まってんだろ…外に聞こえるって…」
「気にするな」
「俺が気にするんだよ…!」
一つ溜息を吐くと扱いていた手が止まり、離された。手が離れてもなお治まらない興奮にばくばくと心臓も早鐘を打つ。すると、大包平が前に座り徐ろにスラックスを開いて自身の陰茎を出した。唐突なその様子に思わず驚いて動きが止まる。奴の逸物は俺のよりも太くて、逞しい
「あ…な、なにして…」
「こうすれば、お前だけ声を出すことにはならないな」
大包平の巨体が近づいてきて肩と肩がぶつかった。状況を理解した時にはすでに奴の逸物と俺の逸物が重なっていた。直ぐに擦るように揺さぶられ昂り同士がぶつかる。手で扱かれるよりも強い快楽に思わず意識が飛びそうになる。
「ん…あっ…ああっ…」
「……っ…くっ…」
思わず声が出そうになり片手で口を塞いだ。すると大包平の手が伸びてきて口を塞いでいた手を外される。
「なっ…おい…」
「声を我慢するな。お前の声を聴かせろ」
熱を孕んだ声につい従ってしまいそうになるが、唇を噛んで抑えた。すると今度は奴の唇が重なり阻止される。噛んでいた唇を舌で舐められ、また体温が上がる。啄むような口付けをされながら昂りを擦る動きは止まらず、それどころか段々激しくなっていく。いよいよ本当に達してしまいそうだ。
唇が離れると大包平が俺の耳元で囁いた。
お前の声が聴きたいんだ
縋り付く声に俺は堰を切ったように身体を震わせる。
「あっあぁっ……いくっ……もっ…むりっ……あっ……」
「一緒にイくぞ…童子切…」
大包平の言葉と同時に精を吐き出した。堤が決壊したように流れ出るそれに大包平も俺も暫く息を荒くさせて動けないままだった。
久しぶりだからか、それとも他人の手によるものだったかは分からずともいつもよりも量が多く濃い。全く、本当に何をしているのか俺は。
大包平は息を上げて顔を紅潮させている。俺の肩に凭れかかるように体を預けるとずしりと重みを感じた。凭れたまま動かない。まさか寝たんじゃないだろうな、この男は。
自分から仕掛けて来たくせにどうしようもない男だと嘆息をついた。

薫り


「においがする」
そんなことを言って必死に鼻息を荒くさせている。餌の匂いを察知した犬のように薫りの在処を探している。こういう時ばかりらどうでもいいことが気になる性分の男だと改めて痛感させられる。
「花かな?」
「この季節は花なんて咲かない」
「でもにおいがするんだよ。いいにおい。甘くて鼻を擽るような薫り…」
花なんて咲かない、というのは少し語弊がある。こんな寒い季節でも咲く花はある。だが、周りを見渡しても花など咲いておらず、痩せ細った空五倍子色《うつぶしいろ》の土があるだけで、過酷な環境でも逞しく生きる植物が生えてる訳でも一箇所だけ肥沃した土壌がある訳でもなく、雑草が蔓延っているだけでどことなく寂しげである。
「おかしいな…気のせいか?」
辺りを見回してる目の前の男は腑に落ちないような表情で相変わらず鼻を動かしている。その姿に思わず溜め息を吐いてしまう。
童子切
名前を呼んで振り向かせると、鼻に溜め込んだ空気をゆっくりと出した。
「そんなににおっているが、案外自分の薫りだったりするんじゃないのか」
「俺の薫り?」
目を見開かせて不思議そうな顔をする。「何言ってんだ」とでも言いたげな顔だ。
「自分の薫りなんて分からないだろ」
得意げに話すその顔が妙に腹が立つ。それなら今すぐ気づかせてやろうと、目の前の男の体を手繰り寄せる。引力によって吸い寄せられたかのような肩口に顔を寄せ、着物越しにぴたりと鼻を押し付ける。控え目に薫りを吸い込むとかぎ馴れた薫りが鼻腔に侵入してくる。ああ、"いつもの"あの薫りだ。
「…なにしてるんだよ」
「薫りの確認だ」
顔は見えないが、きっと何とも言えない表情をしているだろうな。そう思うと抱き締めた体温がわずかに上昇したような気がした。

花咲く呪

 口から花びらが出てきた。
いや、これは花びらなのだろうか。花びらに見える というのは幻視で本当はただの吐瀉物かもしれない。指先で僅かに吐瀉物に触れ てみる。本物だ。本物の花びらだ。薄氷色のうすい吐瀉物。俺はいつのまに花な んて食べたんだろうか?寝ぼけて食べたのか、誰かが悪戯で入れたのか。 あの日から数日、俺は相変わらず花びらを吐き続けている。吐き気がして口を開けば出てくるのは胃の内容物ではなく何故出てくるのかも分からない花びらだ った。日増しに花びらの数が増えていく。そして同時に息がつまるような感覚が ある。何だ、何なんだこれは。俺の身体はどうなってしまったんだ 廊下を歩いていると、突然咳が出てきた。咳は全く止まらず寧ろ酷くなり途轍もない吐き気がしてきた。

「……どうした?」

背後から声がする。そこに居たのは見慣れた赤髪と見慣れたでかい図体の男だった。いつもなら顔を合わせるのも嫌なのに今ばかりはそんなことどうでも良いくらい苦しかった。
他の奴に見られる恐怖も忘れて思わずその場に倒れ込む。動悸がする。呼吸も速くなる。どんどん苦しくなる。息ができない。しんでしまいそうだ。 童子切、大丈夫かという奴の切羽詰まったような声が頭の中で響く。脳みその中 が空洞になってしまったような感覚だ。この状況が現実感を失ってしまっている。

童子切、つかまれ」

赤髪の男ーーー大包平に上半身を起こされた。大包平の腕が肩に回され次の瞬間には体が浮遊感に包まれた。肩を貸されて立っただけで先程よりも幾分か体が軽くなった。額から汗が伝う。全身が怠くて熱い。高温に熱した鉄が溶けるように自 分の体もどろどろに溶けてしまうんじゃないかという恐怖感が、なぜだか脳を支 配した。

大包平の肩を借りて少しずつ脚下を進んでいく。廊下ってこんなに長かっただろうか。この本丸はこんなに静かだっただろうか。この体はこんなにも重かっただろうか。

「事情は後で聞くから今は何も考えるな」

いつもより何だか優しく聞こえる声に黙って身を任せるしかなかった。
部屋につくと、大包平の腕が離れ半ば転げるように畳に倒れた。

不快感が先程よりも増している。胃の中から何かがせり上がってくるような感覚 に介にも姿いてしまいそうになる。だが、 ここ数日の出来事からその"何か"の正体を知っていた。それが尚更己の不快さを増幅させていたのだった。

「おい大丈夫か?布団を敷くか?」

「いや…大丈夫…だから」

大丈夫とは言ったものの、不快さは止まることなく美しついには嘱吐感まで出 てきた。畳に蹲ることしか出来ず視界が霞む。心配している大包平の姿すら上手く捉えることもままならず、咳き込み始めた。喉の奥から上がってくる。ああ、あれだ。あれが来る。ごほっごほっと劈くような咳と共に口から出てきたのは薄い青の花びら。だが つもと少し違った。いつもは数枚程度なのに今回は波板ほど出た。 か、今日はいつもと何もかも違う。

「ど、童子切…」

花びらを吐き出して咳も落ち着き、視界が明瞭になった時頭上からかけられたのは奴の困惑した声だった。目の前の光景に何が起きてるのか分からないとでも言うような顔だ。

「…大丈夫か」

「まあ..今はだいぶ落ち着いたから大丈夫だが……」
 
「…………………」

「驚くよな こんなの見せられたら」

「いや……その花びらは俺の間違いでなければ、お前の口から吐き出されたということなのだろうな?」

その神妙な声色に思わず全身が締め付けられる。うに強ばった。紛れもない事実 だ。見られた以上言い逃れをすることは不可能だ。大包平に隠し通すことはもう できない。しかし口封じをすることはできる。大包所何き合うようは産直し 頭を下げた。

「そうだ。 だけど、このことは皆には黙っていてれないか。心配かけたくないんだ」

「…………」

「……頼む」

「わかった」

何とか了承してくれたようだった。相変わらず思わしげな表情をしているが、義理堅い男だ。一度した約束を破るようなことはしないだろう

童子切、一つ俺とも約束して欲しい」

「...何だ?」

「俺を頼れ。いつでもいい。大したことなくても良いから何かあったらすぐに俺に言え」

射貫くような灰色の双眸に思わず息を飲んだ。本当にこの男らしいなと思う っている者が居れば絶対に放って置かず、出来る限り尽力するように努める。そんないつも真摯なその姿勢を見るたびに思わず笑みがこぼれてしまうのだ。

「...ありがとうな。大包平

「それにしてもおかしな現象だたな。 いつからだ?」

「一週間くらい前かな。特に前触れとかもなく、突然価なんだろな、これ。何かの病気とか。 」

語しながら大包平が畳に落ちた花びらに触れる。どこからどう見ても何の変哲もない花びらだ。そのへんに咲いている花と特に変わったところはない。不可解な奇病に謎は深まるばかりであった。

*

  それから数週間経っても奇病が治まることはなかった。
しかし前と違うところもあった。
発作は波のようで日によって回数が変わり、激しい時とそうでない時がある。症状が安定しないのだ。そしていつ発作が起きるか分からず、自分でコントロールすることも出来ないので大多数がいる場に出ることを避けるようになった出陣や演練の回数が減り、専ら内番や鍛錬の方が増えてしまた。悔しくもあるがこの無様な姿を他の仲間たちには見せたくない。その思いの方が先行するのだった。 

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  自室で一人本を読んでいると、襖の向こうから声がかかり開けられた。 それはこの数週間で嫌というほど見慣れた大包平だった。大包平はあの時の約束通り誰にもあのことを言わなかった。そして俺も大包平のことを頼るようになった。どちらかというと大包平の方が率先して世話を焼いてくるのだが、前よりも 一緒に過ごす時間が増え寧ろ一緒に居るのが当然となってしまった。しかし以前は気付かなかったような大包平の優しさに触れたせいなのか傍に奴が居ないと一抹の寂しさを感じるようになってしまったことは想定外だった。奴の同郷である鶯丸にさえ「お前たち本当に仲が良いな」などと茶化されるようにまでなってしまったのだから、失笑ものだ。

童子切、来い」

「来いって 何だよ。ここじゃ駄目なのか?」

「駄目だ。良いから来い」

ずかずかと大股で部屋に踏み入れてきて、手を取っは本当強引な男だとつくづく思う。

「お前今日は外に出たのか?読書もいいが、外にも出なくては駄目だぞ」
 
「はいはいごめんなさい」

はいはいじゃないぞ!という声を無視して本丸の庭に出れば、空は暁色に染まり線の先には煌々とした太陽が沈みかけていた。夕陽は鉄を溶かしたように赤く、普段見る夕陽とは断然に違った。

「こんなに締麗だと明日は晴れだな」

「なら、明日はどこか出掛けるか?」

「俺、本が読みたいんだけどなあ」

「お前そんなこと言って最近出不精になっているだろう!」

一時の他愛のない会話で花びらのことも忘れられる。二人で過ごす時間が増えていくたびに自分の中の奴の存在が大きくなっていくようで同時に何かが胸の中で燻る。そのことが何ともいいようのない感情にさせるのだ。

大包平 ありがとな」

「礼はいらん。俺が勝手にやっているだけだ」」

夕日に照らされている大包平の横顔は心なしか赤く見えた。

今朝から大包平の姿が見えない。
朝は絶対に姿を現すのに。寝坊か?いや、奴に限ってこんな時間まで眠りこけているとは考えられない。出陣や遠征とは聞いていないから恐らく本丸には居るだろう庭をあてもなく歩いていればどこからか咳き込むような音が聞こえた。何だか心 当たりがあるような気がして音がした方に歩いていけは、井戸の前に見慣れた後ろ姿を捉えた。

大包平

名前を呼べばびくっと大きく背中を震わせて、奴は恐る恐るといわんばかりに張り返った。額には脂汗が浮かんでおり憔悴したような顔つきだ。 

「………………」

「ど、童子切…」

「なあ、大包平。お前もしかして、 」 

「い、いや、これは…!」  

足早に大包平に近寄っていき、肩を掴んで振り向かせた。その時視線の端になに か小さいものが落ちるのが見えた。足許に視線を落とす。黄粉色の土と対比するように、先日見た夕陽よりも赤々とした花びらが数枚落ちていた

「姿を見せなかったのはこういうことか。 」

「...悪い」

大包平は気まずそうに視線を伏せた。大包平がこうなったことには心当たりがあ った。数週間前、大包平に花びらのことを知られ、約束を交わした後大包平は俺が吐いた花びらに触れた。恐らくあれで“感染"したりではないかと思う。

「全部俺のせいだよな…俺が巻き込んだから…ほんとにごめん」

「違う!お前のせいじゃない!俺が無理やり首を突っ込んだんだ。お前を放っておけなくて…お前の力になりたくて…お前に頼られたかった…」

いつもの威勢はどこかに消え、咳き込みすぎたせいか少し掠れた声にますます自分の胸が締め付けられるのを感じた。

「俺もお前が傍に居てくれて嬉しかった。お前が居てくれたからこうしていられるんだ」

「……………………」
 
「なあ、本音を言ってもいいか?」

「...ああ」

「これからも一緒に居たい。傍に居てほしいんだ。駄目かな…?」

その言葉に大包平は驚いたように目を見開いた後、小さく笑って頷いた。直後、 互いに花びらを吐いた。白銀の百合だった。二度と花びらを吐くことはないという証だった。