くつひもむすべない

一次二次問わず小説を載せるブログ

明星のまたたき

 

「明星を知っているか」

鶯丸が急須を手にして言った。注ぎ口から若草色の液体が湯気を立てて湯呑に注がれていくのを眺めながら大包平は何だ藪から棒にと返事をした。

「平野が教えてくれてな。明星は金星のことで明け方の西の空に見られる星を明けの明星、夕方の東の空に見られる星を宵の明星と言うらしい。今の時期に見られるのは宵の明星なんだと」

「季節によって見られる時間が違うのか」

ひとつ寄越してきた湯呑みの中には濁りのない茶で満たされている。

「金星は地球より内側で回っているから月と同じように満ち欠けがある。太陽の光が当たらない真夜中は見えないし太陽の光に遮られる昼間も見えない」

「つまり昼と夜の間のわずかな時間でしか見えないということか」

「ああ。しかも地球に最も近づいた時に太陽と重なってすべて欠けて、最も遠ざかった時には小さいがすべて満ちるらしい。お前と彼奴のようだな」

“お前と彼奴のよう”

その言葉に大包平は弾かれるように目の前の鶯丸を見た。鶯丸はそれ以上話を続けることもなくどこ吹く風で茶をすすっている。大包平がどういう意味だと訊ねてみてもお前なら少し考えればわかるだろうと返すのみだった。

そんなことがあったのが昨日のこと。今日、内番の畑仕事の最中にその話をしてみれば真相の解明を期待した大包平をよそに聞かされた相手、三日月宗近は土に生えた雑草を抜きながらあっけらかんと答えた。

「つまるところ大包平は早く童子切に会いたいということだな」

「おい、誰がいつそんな話をした」

「すまん。俺は童子切のいる方向はわからんのだ。悪いが力にはなってやれん」

「人の話を聞け!」

要領を得ない応酬に大包平は思わず眉宇を押さえた。相手が悪かったかもしれないと考える。三日月も鶯丸と似たような性格である。下手すれば三日月のほうが話がややこしくなってペースに飲み込まれることが多々ある。 そんな相手にするべき話ではなかったかと頭の隅で思いつつ、三日月は核心を突くような発言も往々にしてあるためあながち話相手に相応しくないとも言い切れなかった。

「鶯丸は地球がお前で明星が童子切だと言いたいのだろう。人が最も空を見上げる昼と夜に姿を現さず近づいた時と遠ざかった時で見え方が違う。確かにその通りだな」

三日月の言葉に大包平は鎌を持つ手を止める。鶯丸の言う”彼奴”が誰なのか内心ではわかっていた。なのに三日月に話をしたのは、それを口に出してそうだと明確に認めるのは気に食わなかったからだ。

明星に焦がれてもその姿はわずかしか垣間見えず、幻のような化生を追い求める。まるでお前は彼奴には追いつけないと言われているようでずいぶんと心地が悪い。

大包平童子切に追いつけないなどと少しも思ったことはない。むしろ追い越すことは困難なことではないと幾度も思って己を鼓舞してきた。畏怖する存在ではなく、どこまでも対等な存在としての童子切安綱を求めている。 だというのに妙に胸裏がすっきりとしないのは何だというのか。己に言い聞かせるようにこんなことを考えるのはもはや癖のようなものだった。これはいつまでも抜けきらないのもあの男に囚われ続けている証拠なのかと思った。

結局三日月が言った言葉の通りだったのだ。悔しいことだが。

「三日月、お前の言うことを認めるのは正味気に食わんがその通りだ。しかし刀剣の横綱は二振り揃ってようやく成されるものだというのに彼奴がいつまで経っても来ないせいでまるで俺ばかりが追いかけているだけだと思われるのは気に入らん」

「違うのか?」

「違う。なぜなら彼奴もそのうち俺のことを意識せざるを得なくなる。たとえこれまで興味が無かろうが俺を下に見ていようがどれだけ俺が偉大であるか知れば存在を無視することはできなくなるからな」

「ふむ、お前はその実繊細なところがあるのだな」

「なぜそうなる」

ここに来てずいぶん経った。童子切以外の天下五剣は全員来たし大包平自身も修行に旅立った。それでも童子切はいまだに来ていない。

大包平はいい加減、返事のない問いかけをすることに飽きていた。

この世に生み出されてからの時間に比べれば人の器を得てからの時間など瞬く間だが、不思議なことに今こうして待ち人を待っている時間のほうがずっと長く感じていた。 どれだけ名を呼ぼうが探そうが夢に見ようが姿を現すことがない。せめて其処にいたならば童子切はなにかしらの返答をするだろう。素っ気ない反応でも罵倒でも姿が見えるなら無反応でもいい。しかし、姿が見えずどこにいるのかもわからないということが最も嫌なことだった。

大包平が欲しているのは都合のいい面しか見せない幻ではなく、すべてありのままの姿の実物だ。遠くからではなく己のみがその近くに立てる唯一の存在なのだから本物の明星のように姿を隠すなどそれを許す気は大包平にはない。

「他の者の目を気にするほど自分のことに目がいかなくなるものだと思っていたが…お前は意外と広くものを見ているのだな」

「…お前、俺がそんなに視野が狭いと思っていたのか」

心外だと大包平が怪訝な目を向けると三日月は笑って作務衣についた土を払った。

「お前が片割れで童子切もさぞ誇らしいだろうな」

「なぜお前にわかるんだ」

「そうだな。俺の方がお前とより童子切と長く知り合っているからな。彼奴ならこう思うだろうとなんとなくわかる」

悪意なく言う三日月に大包平は心中、嫌味かじじいと悪態づいた。確かに大包平童子切が共に在った時間など三日月のそれと比べれば圧倒的に短い。

それにこの先、人の器を得た状態で共に過ごせる時間など後どのくらいあるのかと考えると決して長いとは言えないような気がしていた。

人の生は短く、物の生は長いが己らが”人”であれる時は玉響だ。だからそれが尽きる前に早く来いと、ただ大包平は何度目かわからないことを思った。

 

なけなしの極楽浄土

 大包平は怠惰が嫌いである。
ことさら努力をしない者など存在するに値しないと思っている。大包平は常に努力によって格を保ってきた。生まれながらある己の美しさとその評価を甘受している温室育ちだと揶揄する者もいた。その度に大包平は鼻で笑った。ただ甘んじているだけの馬鹿とは違うと。
物なのだから、尤物として遜色ない出来と評価さえあれば特権を甘受するのには容易い。だが、それをいかに最大限に行使できるかは努力にかかっている。
出来と評価は必ず比例するものである。出来に申し分のない評価を与えられているのなら、己もそれに後れをとらない気位でいなければならない。気位を保てなくなれば、見目もそれに応じて腐っていく。己の在り方を左右するのはいつだって見る者なのだ。
大包平がおのずとその考えに至ったことで己は思ったよりも自尊心が低いということに気づいた。人も物も、心あるものは誰しもありのままでは生きていけない。ありのままの大包平は、弱い。しかし強くなければ生きることはできない。
だから化生する。理想で面を隠し、野心を身に纏い、羨望と悪意で着飾る。そうすれば化けることなど簡単だ。他者から求められる姿の己を体現し、己自身も求めた理想の己を映し出す。そうすることで弱さを誤魔化してきたのだ。己を欺けば、周りを欺くことなどそう難しくはない。
大包平は努力をすることで勝者として君臨してきた。努力ができる環境に在りながらそれをしないのは戦わずして負け犬に成り下がるのと同義であり、もっとも唾棄すべきことでもある。
そんな時、あの刀と出逢ってしまったことが好事か否かは今になってもわからない。
「お前が童子切安綱か」
とある博物館、無人の展示室でやや離れた場所に在る一振りの刀に声をかけた。その刀は背後からの突然の呼びかけにも特段驚く様子もなく、大包平のほうへ一瞥をくれると小さく頷いたあと再び跼るように座った。
少しだけ見えた紅の瞳は犀利だったが、顔立ちはなんとなしに浮世離れしていて枯淡な風体をしている。肉付きは薄く、丸まった背中からは頼りなさげな雰囲気さえある。抱く心象は幾通りにでも浮かんできて、相反する要素が同居している出で立ちに大包平はやや面食らった。
───これが俺と同格の刀だと。
それが率直な感想だった。少し前から巷間では˝大包平童子切安綱を東西の横綱˝と称する人間がいると仄聞したことがあった。己と並ぶことのできるほどの刀とはどんなものなのかと、一度この目で見てみたいと思っていた。思っていたよりも近くに在るということを知った時から期待していたが、いざ実物に会してみればこれとはなんとも拍子抜けするものだと乾いた笑いが出る。
「おい、お前。こっちを向け」
夜明けまでの短い時間だ。退屈凌ぎに話相手でもさせようと考えて声をかける。童子切はわずかに首を動かして、目線だけ大包平のほうへ寄越した。
「お前は俺のことを知っているのか」
「知っている、大包平。至極の出来故に一国に等しい価値があると」
想定に反して速い反応に大包平は気を打った。返事をしないかと思っていたが、どうやらはなから無視をする気もないらしい。
「そうだ。俺以上に美しい刀はこの世に存在しないと自負している。そういうお前は自分をどう思っているんだ。お前も俺に劣らない名刀なのだろう」
童子切はその言葉に眉宇を歪めた。
「そういうことは考えないことにした。色々な人間に、色々なことを言われたから」
要領を得ない言葉に大包平は呆気にとられる。どういう意味だ、と訊ねる前に童子切は言葉を続ける。
「お前は人間に観られることも喜んでいそうでいいな。さぞ誇らしいだろう」
童子切はそれ以上何も言わなかった。ただわかるのは、”俺はお前とは違う”と言いたいのだろうということだけだった。

 それからというもの、大包平は暇な時間ができれば童子切に話しかけるようになった。そうなったのは、意図することではなかったが少ない言葉の端々から感じ取れる”機微”のようなものが大包平にとって心地悪くないということに気づき始めたからである。まだすべてではないが、童子切独特の間の取り方というか何を伝えたいかということが察せるようになったのだ。
「相変わらず覇気のない顔をしているなお前は」
いつものように、大包平が声をかけると童子切は”人間に日がな”一日眺められていればそりゃあな”と言いたげな目をした。
「わからんやつだ。尤物であるからこそ人間たちが観に来るのだろう。それは誇るべきことであって、憂うことではない」
「家に留め置かれていると思ったらこんなところに連れて来られて数多の人間に観察されるなんて、そっちのほうがわからない」
童子切から聞かれる言葉といえば、人間に対する不信感からくるものばかりだ。しかし何故そうなったのか聞いてみても一向に答えないせいで、何があったのかは大包平の知るところではない。
「この世は地獄だな。存在し続ける限り、人の目に晒され続けて解放されることが絶対にないのだから」
童子切の顔が悲痛に歪む。双眸は静かに大包平だけを捉えており、胸の中に筆舌尽くしがたい感情が渦巻く。目を離せないまま、返答を待つと童子切は溜め込んだ思いをようやっと表出するように言を続けた。
「…大包平は自分に自信があるのか」
その言葉を耳にした途端、大包平の胸の裡が締め付けられたような感覚に襲われた。真意の奥の、表か裏かわからない本音の扉を叩いている。こじ開けようとしている。だが大包平が胸裏で叫んだ言葉はそのまま声になることはなく、喉奥に落ちていった。
「当たり前だ」
これを言っているのは本当に己かと思いながら、離れたところにある童子切が届くか届かないかの声音で囁いた。
「それは本音、」
語尾に疑問符がついているのか、ついていないのかよくわからない言葉だった。言いかけたのをやめたように、童子切はそのまま押し黙った。
もし己に対する問いかけなら、胸を張って首を縦に振ることができないと大包平は観念した。こんなことで己の弱さを思い知るなどしたくなかった。言葉になりえなかった無稽な答えが、遠雷のように頭の中で残響していた。

「そうか、童子切のことが知りたいか」
明くる日の夜、大包平は展示室を出て収蔵庫に来ていた。目的は他でもない、三日月宗近に会うためだった。大包平と三日月の仲はここに来てから始まったものだが、三日月が童子切と昔馴染であることから相談するなら最適の相手だと考えたからであった。
「初めこそ本体の出来とは裏腹に凡庸な男だと思っていたが、どうやらそれは見誤りだったようだ。俺はあいつのことをまだ分かっていない」
翳りのある表情をしている大包平に対して三日月はいつもと変わらずただ悠然としていた。
大包平よ。お前は童子切の名の由来を知っているか」
童子切の由来。身の上は詳らかには知らないこそすれ、名の由来くらいは知っていた。
大江山の…酒呑童子を切ったとかだったか」
「そうだ。刀の名づけというものは人の心にも大いに働きかけるものだ。良い方向にも悪い方向にもな」
「…悪い方向だと?」
「あいつは幾つかの主のもとを転々としてきたが中には”鬼切りの呪い”を持っていると遠ざけられたこともあってな。ここに来た経緯も人間同士でひと悶着あった末によるものだ」
童子切が人間に観られることをやたら憂いていた姿が脳裏に浮かぶ。大包平が思い出す童子切はいつも寂しげな表情をしていた。
「名は証となることもあれば、呪いとなることもある。人間のもとにある限り、その名で呼ばれることからは逃れられないだろう」
大包平からすれば、名が呪いになるなど想像もしないことである。”大包平”という名は己を体現するに相応しい、己に与えられたこの世でたった一つのものだ。この名に劣後しない刀であるために努めることこそが存在意義であり、存在証明であることを反芻した。
大包平童子切ではあまりにも辿ってきた境遇が違いすぎるゆえに、すべてを理解することもできなければ同情するつもりもない。だからといって、黙って放っていくというのも己の信義に反すると感じた大包平は眦を決した。
「三日月、礼を言う。お前のおかげで腹が決まった」
「おお、そうか。まああいつの性格上、お前からはっきりと言ってやったほうが良いだろう」
収蔵庫から出ていく大包平の背中を見送りながら、三日月は「どうやら俺が仲立ちするほどでもなかったようだな」と満足げに笑いながら独り言ちた。

 大包平が別の収蔵庫にやってくると、童子切は意外な来訪に驚いたのか目を見開いた。
初めて言葉を交わした日からひとつ季節が過ぎた。展示期間が終わり、今は収蔵庫に下がっているためか最近の童子切の表情は以前よりも明るい。
大包平童子切の目の前に立った。展示硝子越しではない状態で向き合うのはこれが初めてだ。大包平が聢と目を合わせると、童子切はその逃げることを許さないと言わんばかりの炯眼に思わず身を退る。他の誰も持ち合わせないほど淀みのない、透徹の地鉄の色をした瞳だった。
───そうだ、この目だ。ずっと感じていた感覚はこれだ。
大包平はその瞳の中に”己”を見出したのだ。これは”己自身”だ。己を映した鏡なのだと。だから、放っておけないとそう思った。
童子切、お前にちゃんと言っておきたいことがある」
この瞳で、今まで何を見て何を感じてきたのだろうか。情を受けたことはあるのか、人膚の温もりを知っているのか、腥い血をその身に浴びたことがあるのか、どれも想像するだけでその域を出ない。大包平が経験したことがないことまでも見知っているかもしれない。それでも似た形の魂が糾えば、互いの孤独を癒せるような気がするのだ。
「三日月からお前の過去の話を聞いた」
童子切はさらに瞠目した。大包平から予想外の名前が出てきたことにも、過去のことを知られてしまったことにも驚いていたのだ。
「一度背負わされてしまった業を俺が肩代わりすることはできない。だが、ともに背負うことならできる。この先何があろうともこの俺が隣にいる。だから何も憂うことはない」
童子切の瞳は揺れていた。黙ったままで口を開こうとしない。
「あの日、お前に本音かと聞かれた時に俺の弱さを見透かされたような気がした。今まで誰にも知られたことのない本心を暴かれたようで、こわかった。しかし、弱さを晒し合うことでお前と対等に向き合えると感じた」
「…ばかばかしいことを言うんだなお前は」
「馬鹿馬鹿しいことに懸命になるのが俺なんでな」
馬鹿馬鹿しさから目を背けて生きていくことは可能だが、目を背けたまま知らないふりをするのはことのほか愚かなことだと大包平は思い為したのだ。
「俺は本音を言ったぞ。お前はどうなのだ、童子切
大包平に促され、しばし逡巡したあと静かに話し始めた。
「俺はたまに、今までの自分をすべて無かったことにしたいと思うことがある。この名を捨てられたらどんなに楽だろうと。なのにお前は俺に”童子切”であり続けろと言うんだな」
「お前が存在し続ける限り”童子切”であることに変わりはない。他の誰もが、お前さえもがお前のことを忘れてしまってもお前の名を呼ぶ」
「俺がいなくなったらどうするんだ」
「探しに行く。たとえ地の果てだろうが」
「…最悪な呪いだ」
「俺以外にお前と並び立てられる者はいないのだから当然の責務だな。何せ、俺とお前は”刀剣の横綱”なのだぞ」
自信満々に宣言する大包平童子切は若干はにかんでいるような何とも形容しがたい表情をする。確かなのは、嫌悪や拒絶の意はないということだ。
「俺がいれば、少なくともこの世が地獄だなんて思うことはなくなるぞ。安心しろ、極楽浄土だ」
「安い極楽だな」
そう言いながら、童子切は少し先の未来のことを考えた。
浄土は、すぐそこまで来ていた。

 

朧月夜

 

空を見上げれば月が霞んでいた。
周りの木々が空を囲むように聳え立ち、薄い雲が被さった丸い月が白く光っていた。
目を眇めて天を仰げば月の光が降ってきそうなほど眩しかった。
外に出て月を見上げるということも、肉の器を持つ前は想像も出来ない行為だった。
己が"目“を持ち、その"目"で物を見るなど人の体を持ち得ているからこそ出来たことだった。
縁側に腰掛けながら、童子切安綱は視線を下ろし自分の草履を履いた足を眺めた。
「夜中に外で黄昏る趣味でもあるのかお前は」
突然背後から聞こえた声に童子切は身体を揺らして振り向いた。
そこには見慣れた一人の男が立っていた。鬼丸国綱だ。
「鬼丸か驚かせるなよ」
「驚かせたつもりはない。こんな夜中に庭で所在なさげにしている奴がいたら怪訝に思うのが普通だろう」
「別に暇してたわけじゃない。月を見ていたんだ」
月?と訝しげに眉を顰めて童子切を見据えた。その顔に童子切は直ぐに「自分が月を見るなど風流な嗜好があるはずない」と思われたのだと察した。片眉を吊り上げておどけるように一瞥をくれてやる。
「お前、俺がそんなのするわけないと思ってるんだろ」
「よく分かったな」
「分かるわ!失礼な奴だな。俺にも雅の一つや二つ分かるっての」
「どうだろうな

童子切はひとつ伸びをして再び空を見上げた。川の渓流のごとく雲が流れている。
きっと羽衣を纏った天女が泳ぐと空はこんな風になるのだろうと頭の片隅で思うと、つい笑みが零れそうになる。
「そんな薄着で外に出ると湯ざめするんじゃないのか」
……そんな心配するとか、俺お前の女みたいだな」
「うるさい」
そう言いながらも童子切は少し肌寒さを感じていた。湯浴みから幾許か経ってはいるが、春とはいえやはり夜は肌寒く寝巻一枚では心許なかった。
対して鬼丸は寝巻の上に茶羽織を羽織っていて寒さを感じている様子はなかった。
風が黒い木々の葉を揺らすと童子切も誘われるように嚔をする。
「寒い」
「外に出るなら一枚ぐらい羽織れ。春とはいえこの時間は暖かくない」
………………
「何だその目は。貸さんぞ」
この本丸に刀剣男士として顕現してからそれなりに日は経ったものの、やはり人の体というものに不慣れさを感じるところはあった。人間は風邪をひく。体調を崩すと咳や熱を出す。薬を飲んだり、安静にして寝ていなければならない。病気を患ったりするのは人間の体の不自由さとも言えるかもしれない。
「でも、刀である俺たちは風邪とかひいたりするのかな」
「それは知らん」
「でも寒いな」
「だから貸さんといってるだろう。自分で取ってこい」
腕を組んで童子切から目を逸らす鬼丸に童子切は口角を上げて意味深に笑った。その様子を傍目に鬼丸はどことなく嫌な予感がしながらも目線を合わすまいとそっぽ向く。
「じゃあ、くっつくか」
「何故そうなる!?」
童子切は鬼丸に身を寄せ肩に頭を乗せた。童子切よりも鬼丸の方が数センチ身長が高く体格も少々違う。
体温もさほど高くはないが、心なしか温かく感じ何より安心感があって落ち着く。
背の高い男二人が身を寄せ合う姿はきっと凄く滑稽でまるで寒さに耐えかねた子供同士が暖を取り合うようなどこかおかしい光景に見えるだろう。こんなところを本丸の誰かに見られたらまずいだろうな、など童子切は他人事のような考えを頭の隅に追いやった。
「おい、離れろ」
「嫌だ」
「嫌だじゃない。離れろ」
「良いだろ。今くらい別に」
「こんなところ誰かに見られたらどうする」
「二人で体を温め合ってたんですぅーって言えばいいだろ」
「そんな言い訳通じるか」
口ではぐちぐちと言いながらも離れようとしない鬼丸に、童子切はほくそ笑んだ。
何だかんだ言ってこの男が自分のすることに弱いのは元より知っていたことだからだ。

「月、綺麗だな」

「そうだな」
告白してるんじゃないぞ」
「知っている」
「月に虹の糸が巻きついているみたいだ」
「随分詩的な表現だな」
「俺、ロマンチストなんだよ」
そんな取り留めのない会話をしながら寄り添う。普段ならばこんなに密着することもないし、自分からこんなこともしない。だが今だけはこんなことも許されるんじゃないかと思った。鬼丸はきっと他の男にはこんな行為許さないだろう。許されるのは自分だけだ。自分だけ、この位置を独占できる。
「なぁ、知ってるか。こういう月が霞んでいる空のことを"朧月夜"と言うらしい」
「"朧月夜"と言ったら源氏物語だな。確か和歌にちなんだ名前だとかいう」
「"照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき"、だな」
「彼女は宴の夜に光源氏と出会って東宮の女御に入内する予定だったが、関係が発覚して破棄されたんだってな」
「悲しいもんだな」
「それに二人が出会ったのは桜の季節だったようだ」
「春は恋の季節とも言うしな」
「随分ロマンチックなこと言うな」
「だから俺ロマンチストなんだって」
元の主が死んだのも旧暦の五月だったな」
鬼丸が声を潜めて言う。どことなく声色が暗く、童子切は鬼丸の顔を見ないように俯いた。
きっと"あの男"のことを言っているのだろう。永禄の変で討死した、あの元の主のことを。
お前、そんなの覚えているのか」
「たまたまだ」
「本当か。それにしては随分と声が暗いが」
「様々な人間の元を渡り歩いてきた。あの男はそのうちの一人だったに過ぎない」
「思い入れはないのか?」
どうだろうな」
少し声色が明るくなって顔を上げる。見ると鬼丸は嫣然と笑っていた。
死は人間に必ず訪れる。どんな豪腕の武将でも逞しい勇士でも平等に死は訪れる。
自分たちもその逃れられない運命を受け入れているはずだった。既に悟っているはずだった。
「人間は脆いな。いつかは必ず死ぬ」
「物もいつかは壊れる。だけど俺たちは何百年経っても元気なまんまだ」
「色々な人間の元で色々な刀と出会ったが、俺たちまた巡り合ってしまったな」
「全くだな。腐れ縁というやつか」
「嬉しくない」
鬼丸は童子切の方を向き見据えた。その表情はどこか淅瀝なもので、童子切は戸惑った。
思わず身体を離した。未だ見つめてくる鬼丸に童子切はどこか居心地の悪さを感じた。
耐えられず口を開こうとして、突如腕を引っ張られる。
腰に手を回され身体が密着する。状況を把握した途端、着物越しに体温が溶け合い、熱が上昇する。鉛の体を動かそうとも力が強く振り解けない。蜘蛛の糸に絡め取られた哀れな蟲のようにじわじわと責められる。ゆっくりと雁字搦めにして逃げられないように、壊れないように。
亡失した人間のことは記憶の片隅に消え、いつかは忘れてしまう。逆に忘れたくても忘れられない奴もいる」
……………
「どんなに離れようともまた巡り合う。磁石みたいだな」
……何が言いたいんだ」
「人間の体は良い。無卿をかこつようなこともないし、刀であった時には出来ないことが出来る」
互いの顔は後少しで触れてしまいそうなほど近く、目さえ逸らすことが許されなかった。
鬼丸は獲物を捕えた獣のように不敵に笑い、童子切の手に触れた。己の指と絡め、離れないように慈しむような手つきで固く結んだ。
童子切の意識が手に向かった途端、隙ありと言わんばかりに視界が覆われた。
互いの唇が触れ合い熱く重なる。思ったより鬼丸の唇は温かく柔らかい。舌で唇を舐められると、肉が蕩け合うように温度が上昇し角度を変えて何度も触れさせる。
っは、おまえ
漸く唇が離れると、息を吸った。人間の体を得てから鬼丸と口付けを交わしたことなど数えるほどしかない。なのになぜか手慣れたその行為に戸惑いつつも、未だに口付けは慣れない行為だった。
「そんな目で見るなよ」
お前が突然そういうことするから」
「そんな物欲しそうな顔されたら我慢できなくなるだろう」
「そんな顔してない」
息を整えながら童子切は鬼丸を睨みつけた。だが向かい側の男は素知らぬ顔で悠然としていた。
そんな態度に内心苛立ちを覚えながら童子切は立ち上がった。
「何だ、もうお開きか」
「お前とは付き合ってられん」
「冷たい奴だな」
「ふん、お前なんか寝坊すればいいんだ」
「それはお前だろう」
睨めつくように鬼丸を見て足早に去る。でないと向こうが何をしてくるかも、自分もどうなるかも分からず動揺を表に出してしまいそうになるからだ。
どこか楽しそうな背後からする男の声が頭の中で響きながら、先程触れられた手を握る。
わずかに残る体温と感触にまた熱が上昇するのを童子切は感じた。

 

Nightmare Counseling

待つ宵、黒い帳が空を飲み込もうとしている頃。
本丸の玄関には複数の刀剣男士が集っていた。全員武装を身にまとっており誰もがその顔には覇気が感じられるものだった。
「みんな刀装は大丈夫ー?投豆兵ちゃんと持った?」
粟田口の短刀、信濃藤四郎が甲斐甲斐しく部隊員たちに確認する。しっかりしているところは流石粟田口といったところか。ちなみに来歴から妖物退治をした経験はない。
「おー、準備万端だぜ。いつでも行ける。鬼退治は専門外ではあるけど…まあ何とかなるだろ」
柄の長い槍を抱え今度は御手杵が若干気の抜けていながらもどこか頼もしさが感じられる返事をする。こちらも妖物退治の経験はない。
「よっしゃー!鬼退治だー!行くぜ!じっちゃんの名にかけて!
部隊員の中で最も張り切った様子の獅子王が元気よく鼓舞する。妖物退治の経験に関しては、元主である源頼政が鵺を退治した恩賞として下賜された刀であるが本刃自体が妖を斬ったことは無い。しかし、全く妖に関係ないとも言えない来歴を持っていてこれから鬼を討ちに行くという興奮と、純粋に戦に出られるという喜悦で相手が何であろうと怖めず臆せずといった様子だ。
そんな三者三様、ひいては喧喧囂囂としている三振りを少し離れたところで眺めているもう三振りの刀剣男士がいた。
「彼らは威勢がいいねえ」
源氏の重宝​────髭切が感心したように言う。大雑把を好む飄逸な禀質のこの刀は、向こうの三振りのいづれにも当てはまらず至極落ち着き払っていた。
「今さら相手が何であろうと怯む連中もいないだろう。もっとも、鬼を切るのはおれの役目だが」
朗らかな表情の髭切とはうってかわり気難しい表情をしているのは───いつもと変わらないのだが​───粟田口の太刀で、天下五剣の一つに数えられる鬼丸国綱だった。この本丸にやって来たのも今の主の元に鬼が来る夢を見たからであった。今となってはようやく手に入れられた安住の地として居着いているが、鬼丸にとっての重要仕事は鬼を切るということなのはどこにいようが変わらないものだった。さらに、今回の出陣ではこの部隊の長を審神者より直々に任命されたのだった。まるで、「存分に鬼を狩ってこい」と言わんばかりの配置だ。
「鬼といっても本物の鬼ではないけれどね。鬼に扮した時間遡行軍、つまり鬼の贋物ってわけさ」
「ふん、そんなことはとうに知っている」
髭切が鷹揚と指摘すれば、鬼丸はつまらなさそうにそっぽ向いた。髭切の言う通り今回彼らが討ちに行くのは本物の妖としての鬼ではなく、あくまでも鬼に扮した時間遡行軍である。本物ではないということに鬼丸も正直のところ落胆を隠せないでいたが、今はなんであれ鬼の姿をしていようがただ敵を倒すのみと気持ちを切り替えているのだった。それに扮装だろうと鬼の姿をしているのならそれはもう鬼本物と同然だろうというある種の詭弁じみた言い分も胸中に秘めていたが、それはもちろん他の刀に言うことはなかった。
「まあ、鬼退治は武家の役目だから────ね、童子切?」
髭切がそれまで一切口を開くことなく伏し目がちで物思いに耽っていた最後の一振り、童子切安綱に問いかけた。髭切に話しかけられたことに数秒経て気づくとはっとしたように顔を上げた。
「悪い、考え事をしていた」
「考え事とは珍しいね」
「今になって怖気付いたか」
「ああ、違う違う​────鬼退治は武家の役目、だったか。そうだな。昔は鬼に限らず妖などの人智を超えた存在の対処は力あるものに任されていた」
まだ武士が大々的に台頭する前、平安の都では妖が跳梁跋扈していたがそうした輩を膺懲するために時の権力者、つまり朝廷に仕える者である武家の者たちがその役目を担っていた。武家の者は武芸に秀で、当時の絶対的存在である朝廷に仕える者たちに妖退治を任せるのは至極当然のこととも言えるだろう。
「そう考えると、鬼切りの逸話があるのも武家の刀である俺たちの特権とも言えるね」
「はは、確かにそうだな」
この三振りにはそれぞれ鬼を切った逸話がある。宇治の橋姫の腕を切った髭切、主が夢に魘される原因となった鬼を切った鬼丸、そして丹波国大江山に住まう酒呑童子の首を切った童子切。それぞれ性質の違う鬼を切っているが、どの逸話も銘々の名の由来に、あるいは存在や価値を確固たるものにする標榜となっている。刀にとって切ったものとは、己を構成する要素の一つとしてある意味愛着すら覚えるものでもあるがそれと同時に己を悩ませるものともなった。童子切にとって旧怨の敵である酒呑童子の首を刎ねたことこそが輝かしい経歴の第一歩であり己がいかに業物であるかを証明する誇りであるのに、この鬼を切った故に受けてしまった"傷"への悲嘆という矛盾した感情も抱いていた。徳川、豊臣などの天下人には忌憚され、傍に置かれることはなかった。その後、徳川秀忠の娘、勝姫の松平忠直への輿入れとして越前松平家へと移るが忠直は乱行を繰り返し流罪、勝姫は家の問題に強く干渉したが故に衰退を招く原因となってしまった。それらを知ったものたちは口々に言った。「童子切の鬼を切った鬼の呪いのせいでああなったのだ」と。妖物を祓った刀はいくらか妖気を帯びてしまうことも珍しくない。しかし、本当に鬼を切った呪いのせいで招いた結果なのか、それともただの偶然の重なりなのか。それがわからない以上何の答えも出せなかった。この境遇は鬼丸も同じだ。鬼を切ってしまったが故に持ち主に不幸を齎す刀だと言われ遠ざけられた。一定の場所に居着くということには誰よりも敏感だ。だからこそ、この本丸もようやく見つけた己の居場所だと安心しているのかもしれない。童子切は、それが己の呪いのせいであれ何であれ一度持ち主となった人間を再び不幸にさせてしまうようなことだけは避けなければいけないと思った。遠ざけられるのではない、傍で仕えて守り抜くために。その誓いを胸にこの本丸に刀剣男士として顕現したのだから、絶対に信念は曲げてはならなかった。
「​────俺たちは"真正面から"鬼を殺すことができるか?」
始原、かの源頼光とその配下たちが大江山へ都を騒がす鬼を征伐しに行ったとき。山伏に扮した頼光らが鬼たちの宴に紛れ込み、神便鬼毒酒を飲ませて寝首を搔くという手筈で行われた。大将酒呑童子の首を刎ねたとき、酒呑童子は「鬼に横道なきものを」と言った。確かに頼光らが行ったことは言うなれば騙し討ちと呼ばれるものだった。酒呑童子らは人の渡世を踏み荒らす悪鬼であり、為政者(アジテーター)の敵であった。善悪の区別など人側に立つか、妖側に立つかで変わるものだがそれでも童子切にとっては空恐ろしいものでもあった。刀剣男士である己に、今となっては自らこの手で己自身を振るうことができる肉の器でどう鬼と渡り合うことができるのだろうか。はたして、正々堂々と戦い抜くことはできるのか。童子切の胸裡に翳が落ちそうになった時、不意にその声によって打ち消された。
「​───できるよ。僕たちならね」
髭切の琥珀色の双眸が童子切を捉えた。その瞳にはこれ以上ないほどの自信が表れていた。
「今さらそんなことを気にしているのかお前は。ただ向かってきた鬼を切り伏せるだけだ」簡単なことだな」
鬼丸も同じように曇りのないその瞳で言い放つ。ふたりの言葉を聞いて童子切は一番大切なことを忘れていたことに気づいた。
「そうだ、そうだった。ひとりじゃない、お前たちがいるんだ」
ひとりでは不可能なことでも、仲間がともにいるなら出来るかもしれない。なぜそのことを失念していたのかと童子切は己を深く恥じ入る。
「人間ではできなくとも、おれたちは刀だ。刀でなければできないことがあるだろう」
言い方はぶっきらぼうだが、その心根に優しさを含んでいることを童子切は誰より理解していた。この刀はそういう奴だと忘れるはずがなかった。
「本当にその通りだな……俺たちにしかできないこと、やってみせよう」
ひとつ、柔く笑ったあと眦を決したように童子切は空を見上げて、息を吸う。夜の気配、夜の匂い、そして目を閉じれば今にも妖の気配、血の匂い、戦の匂いが漂ってくるのを容易に想像できた。
鬼丸が向こうにいた三振りを呼び寄せる。もうすぐ出陣の時間だ。
​────逢魔時。日が沈んだ後の、人ならざるものと出会うという時間。太陽が沈み、月が歩み寄ろうとしている。すぐ傍までやって来ている、この二つとしてない夜が。
​─────さあ行こう
都へのゲートが開かれた。鬼狩りたちの夜が、始まる。

On Holy Night

 駅の改札口を抜けると、雪が降っていた。
顔を上げると鉛を溶かしたような灰色の空が広がっている。絵具で塗りつぶされたかのような不自然な色だった。虚空に向かって息を吐けば、白煙のように昇って消えていく。
改札口から押し寄せる人の波に乗って、バス停に向かって歩き始めた。随分遅くなってしまった。
スマートフォンの液晶には"10:16"を表示していた。この時間なら何とか終バスには間に合うだろう。
駅ビルの横を歩くと目につくのは赤や緑、金を基調としたオーナメントだった。今日は12月25日。クリスマスだ。
日付を見なくとも今日がクリスマスであることは自明だった。
街の至る所からクリスマスソングや第九が流れ、クリスマスツリーの電飾が目にとまり、手を繋いで歩く男女と嫌というほどすれ違うからだった。
クリスマスと言えば恋人と過ごす若者は多いのだろうが、自分とは無関係の話だった。それに聖夜だというのにアルバイト三昧である。
他のバイト仲間はクリスマスということで休みを希望している者が多く居た。さしずめ自分はその補闕 である。聖なる夜にカップルたちが睦み合っている中、独り身は寂しく仕事に没頭するしかないのだ。
同じくシフトが入っていた仲間から飲みにいかないか誘われたがやんわりと断った。何となくそういう気分にはなれなかったのだ。

緩慢と揺れ動く人の列に肩を窄めて歩く。クリスマスはキリストの降誕祭だ。つまり誕生を祝う祭りなのだ。こうして見ると死者たちが神の裁きを受ける為に天国への門に向かっているように見えてくる。ならばカップルは地獄に堕ちるのだろうか。
そんなことを思って、出そうになった乾いた笑いを押し殺す。何で自分がこんなに僻んでいるのか不思議に思う。世の男女が何をしていようが関係ない。関係ないはずだ。
停留所の前に止まってスマートフォンを出すと、メッセージアプリを表示させた。
そして何を思ったのか通話画面を開く。画面の上部にはかつて付き合っていた女の名前があった。
彼女とは一か月前に別れた。一年近く付き合ったが自分にしてはまあまあ続いた方だろう。
どっちかと言うと恋愛に関しては淡泊だ。誰かを本気で好きになったことがないし、自分から積極的にアプローチした相手もいない。色々な女と付き合ってきたが、どの女も本気で入れ込むことはなく付き合っては別れるの繰り返しだった。
だが今回の女は違った。大学で同じゼミの仲間で、初めは向こうから付き合って欲しいと告白された。
最初は毎度の如く漠然と日々を過ごしていたが、次第に彼女に情が湧くようになった。優しくて、献身的で、一緒に居て安心できた。今まで付き合ってきた女とは全く違う感情を覚えた。
ずっと一緒に居られると思っていた。だが、それは不可能だった。突然別れを切り出された。「他に好きな人ができた」と言った。その時の彼女の表情はとても申し訳なさそうに笑っていた。ピントのずれた視界の中で彼女が「ごめんね」と言って去っていくのを眺めることしかできなかった。
長いようで短い一年だった。あの時別れていなかったら自分も、すれ違うカップルたちのように笑っていたのだろうか。
幸いブロックはされていないので連絡を取ろうと思えば取れる。電話も着信拒否されていなければ繋がるだろう。だがそんな勇気はなかった。今さら彼女を追うことなど、自分には許されていないのだ。

バスは意外と人が乗っていた。聖夜といえども、仕事をしている人間は多い。
トーク欄を見つめて溜め息を吐く。気軽に誘える友人は少なくないが、この時間だ。恋人がいる者も居れば、既に友人や家族と過ごしている者も居るだろう。
こんな時間に連絡をしたところで相手に迷惑になるだけだろう。手持ち無沙汰になってスマートフォンをポケットにしまう。何をすることもなく窓の外をただ眺めた。
バスを降りてアパートまで歩く。最寄りの停留所からアパートまでは歩いて5分ほどだ。朝、急いでいる時は短く感じられるこの道もなんだか今はとても長い道のりのようだった。
人通りはほとんどない。ところどころ電灯が道路を照らしている。眩しい白い光が、一人さびしく歩いている自分を嘲っているような気さえする。
重い足取りで階段を上り、部屋の前に着くと鞄から鍵を取りだす。
鍵穴に入れて右に回して扉を開けると靴を脱ぐこともなく、玄関の地板に倒れる。疲れた。今日はさっさと寝たい。でも風呂に入らないといけない。あぁめんどくさ。
立ちあがって靴を脱ごうとした時、ポケットの中から音がした。スマートフォンの通知を表示させると、"鬼丸国綱"の名前があった。
内容は絵文字もスタンプもなく、ただ"帰ったか?"の五文字。何て簡素なんだろうか。あいつらしいと言えばらしいが。思わず笑みが零れる。
きっとあいつのことだから、クリスマスに彼女の居ない独り身である幼馴染を心配してのことだろう。一か月前の出来事から傷心の自分に慰めのつもりか気持ち悪いくらい優しくしていたので尚更だろう。
すぐさま返信をする。
"帰った。お前もクリスマスソロか?笑"
それにしてもこんな時間にわざわざ連絡を寄越してくるとは律儀なやつである。確かあいつも今は恋人が居なかったはずだ。まぁ居たらこんな時間に連絡なんてしている暇はないだろう。
再びトーク欄を表示させる。なんとなく下にスクロールさせると、"大包平"という文字が目に留まる。
大包平、鬼丸と同じく幼い頃からの付き合いであるこの男は昔から己を悩ませる種でもあった。
一つ年下でありながら既に小学生高学年で背を抜かされてしまった。富裕層の出身であってか、若干箱入りなところがあってどんなこともそつなくこなすハイスペック男だ。強情でうるさい奴だがどことなく品があって女にもモテる。出会って数年ほどはまだ素直で可愛げがあったが、背を抜かされたことが恐らく始まりだったのだろう。今となっては顔を見るのも億劫な男だ。
普段は連絡を取ることなど、ほとんどない。だが、今ばかりは誰かと話したいと思った。
別にこいつじゃなくても良い。鬼丸と話せばそれで済む話だ。いつもなら絶対に話したいだなんて思わないだろう。
それなのに、考えていることに比例するように指が動く。トーク画面を表示させてメッセージを打ち込む。
"あいたい"



自分は何を書いているんだ?"あいたい"?どうして?自分が?こいつに?
男にあいたい、だなんて普通は言ったりしない。自分はどうしてしまったのだろうか。クリスマスだからと言って気分が高揚しているのだろうか。
メッセージを咄嗟に消そうとして、指が送信ボタンにずれる。
押してしまった。しまった。何をしているのか。こんなもの見られたら堪ったもんじゃない。
削除しようとして、音が鳴る。画面の下側にメッセージが表示される。
「はや…!?」
レスポンスの速さに思わず声が出てしまう。こんなに直ぐ返信するなんて、こいつは何をしているのか。暇なのだろうか。
"会いに行く"

何だと?会いに行く?誰に?どこに?どうして?
たった五文字のメッセージに混乱する。言葉の意味は理解できるのに意図が理解できなくて、どうしたらいいか分からない。何故この男はこうなのだろうか。昔からそうだ。この男に対して何かを求めるとこの男は常に全力で応えようとする。この男は自分に出来ないことをさも当然かのようにやってのける。
どうしてただの幼馴染の為に、こんな時間に会いに行こうと思えるのか。
その思考が理解できないし、その男に結局甘えてしまう自分の浅ましさも嫌になる。
やっぱり気に入らない。誰かの為に必死になれるこの男のまっすぐさが。
再び音がして画面に表示される。鬼丸からだ。
"うるさい。寂しいなら、今からお前ん家に行ってやろうか"
さっきと変らず顔文字もスタンプもない。これだけだと冷たい感じがするが、幸い鬼丸はこういうスタンスであることを熟知しているため何とも思わない。寧ろ、気を遣っているつもりなのだろう。
こんな時鬼丸の言葉の意図は簡単に理解できるのに。なぜあの男は分からないのだろうか?普段連絡をとらないから?それとも、あの男の本当のことを今まで理解しようとしてこなかったから?
考えてもわからなかった。

数十分してチャイムが鳴った。年季の入ったボロアパートなのでもちろんインターホンなどない。
恐らく大包平だろう。ああ本当に来てしまったのか。
扉の前に立ち、ドアスコープを覗く。見知った赤色の尖った髪。やはりあいつだ
どんな顔をすれば良いのか分からなくてドアノブに手が伸びなかった。開口一番、なんて言えばいい?
「よく来たな」…ってなんだよ。「会いたかった」…恋人かよ。「来てくれてありがとう」…これも何か違う。
ああ、やっぱり会わせる顔がない。これも"あいたい"だなんて送ってしまった自分のせいだ。数十分前の自分のミスを憎んだ。
童子切!居るんだろう!」
「声がでかいよ!近所迷惑!」
夜だと言うのに周りを憚らない声に思わず扉を開けてしまう。こんな時間にでかい声を上げたらお隣さんから苦情が来るかもしれない。流石にそれは勘弁願いたい。
「居るんじゃないか」
「……あー、うん…まぁ」
目の前に息を切らして立つ男。コートを一枚着ただけの出で立ちに慌てて出てきたのがすぐに分かった。
何だか突然申しわけなく感じてますます居心地が悪くなる。
「なぁ…何で来たんだよ?俺確かにあんなの送ったけどさ…」
「?あんなのとは?」
「だから……"あいたい"って送っただろ!あっあれは別に本心とかじゃなくて、なぜか勝手に打ってしまったというか…消すつもりだったけど間違って送っただけだ!」
弁明するつもりが、これじゃあますます墓穴を掘っているような気がしてならない。
何を言っているのだろうか。やはりクリスマスだから気分が高揚しているのだろうか。酒は飲んでないから酔っているわけではない。
「俺に会いたかったのか?」
「だから違うって…!俺、なんであんなの送ったんだろう…お前なんかに会いたいとかおかしくなったのかな…お前はお前で"会いに行く"とか返すし…何考えてるんだよ…本当お前のことが分からない…」
「会いたいと思ったこと以外に理由なんてないだろう。お前は俺に会いたかったし、俺もお前に会いたかった。それだけだ」
平然とそんなことを言う。よく言えるな。"俺もお前に会いたかった"だと?何だそれは。
頭の中では反論しようとするのに、言葉が喉に引っかかって出てこない。
「…お前、恋人と別れたと聞いたが」
「何で知ってるんだよ!?」
「人の噂というものは簡単に広まるぞ。お前のことだから、別れた女に未練があるから俺に会いたいと思ったんじゃないのか」
まるでお前の考えてることなど全てお見通しだと言わんばかりに話してくる。面と向かって言われたその言葉に、胸の奥に押し込んでいた感情の堤が決壊して氾濫しているかのような感覚に陥った。
「…俺、好きだったんだ」
「…………」
「初めてこんなに誰かを愛おしく思ったんだ。今まで付き合ってきた女は何とも思わなかったのに。ずっと一緒に居たいって…でも彼女はそうは思ってなかった。やっぱり俺が悪いのかな…今までの彼女を大切にしてこなかったから、罰が当たったんだろうか…もう戻ろうと思っても前には戻れないって…」
一ヶ月間、胸の奥で鍵をかけて閉じ込めた感情を出してしまった。誰にも曝してはいけないと思った。だけど、何故かあろうことかこの男に言ってしまった。こんなみっともない姿を、気に入らない幼馴染に見せてしまった。

だけど情けないとか、悔しいとか思う以上に彼女への想いが止まらなかった。改めて自分はあの時の恋を失ってしまったのだと痛感した。二度とあの愛しい日々は帰ってこないのだと感じる。
そう思うと眼頭が熱くなって咄嗟に俯いた。涙が出そうだった。20を越えて泣くなんてみっともないが、涙は引っ込みそうにもない。こんなところを見られるなんて、この男はなんて思うだろうか。彼女に未練があったことを指摘しただけで、目の前で泣かれるなんてたまったものじゃないだろう。
本当に馬鹿だ。こんな姿見せるなんて。クリスマスだから今日はちょっと情緒不安定になってるらしい。全部クリスマスのせいだ。

童子切…こっちを向け」
頭上から静かに声がする。だが、顔を上げる気なんて起きなくて俯いたまま無視をした。
数秒のあと、影が動いて背中に腕が回され一瞬のうちに体温が上がる。
顔は無理やり上を向かされ目の前の男の肩に収まった。身体と身体が密着して身動きがとれない。力が強い。振り解けない。あったかい。これどういう状況?
色んな感情が頭の中で飛び交う。えっなにこれ?
「何どさくさに紛れて抱き締めてんの…」
「慰めだ。悲しい時は誰かの体温が恋しくなるだろう」
そうかもしれないが、何でこいつに抱擁されなければいけないのだろうか。今すぐ離れたいのに、力が入らない。振り解こうと思えば振り解けるかもしれない。でも、振り解けない、振り解きたくない。
普段だったら顔ぶん殴ってやるぐらいするが、今だけはこの体温を手放したくなかった。
体格差があるせいか、抱き合っている、というよりは包まれている、という表現の方が的確なんじゃないかと思う。屋外だが、急いで来たからか心なしか温かく、思わず安心してしまう心地だった。暫くはこのままでいたい。この、昏くて優しい抱擁をもう少しだけ味わって居ようと思った。

 


「あ、」
「どうした?」
「鬼丸に返信するの忘れてた…」
「怒ってるんじゃないか」
「あぁ…だろうなぁ…そういや、鬼丸もここに来ようか言ってたんだよな。でも…お前居るしな」
「別に呼んでもいいんじゃないか?」
「そうだな…コンビニで酒でも買ってくるか」
「それが良いだろう」
「…あ、」
「今度は何だ」
大包平………メリークリスマス」
「今更だな。…メリークリスマス、童子切

 


 どちらから求め始めたかは覚えていない。
気づいたら唇を貪られていた。
一瞬で大包平の顔が目の前に広がり生温かさを帯びた口付けをされる。大包平の唇は少し乾燥していて柔らかいとは言えなかったが、何とも言えない心地良さが体を包み一時の快楽を創り出す。肩に回されていた片手は俺の腰に回りぐい、と自分の方に引き寄せるように力が込められた。"離したくない"という哀願のような思いが感じ取られ、こちらもどうしようもなく切ない気持ちになる。無意識にといっていいほど俺も大包平の背中に両腕を回した。大丈夫だと、俺は離れたりはしないと安心させるように慈しむようにわずかに力を込めた。
回された腕に安堵したのか、それとももっと求められていると思われたのかは分からないが大包平の舌が唇を割って侵入してくる。
多少強引とも言えるそれに思わず心の中で笑った。この男らしいと言えばらしい、強引で少し不器用だが愛情が伝わってくる。そんなところさえ、とても愛おしい。
肉厚の舌が入ってきて口腔内を好き放題に駆けずり回る。まるで舌だけ別の生き物かのような動きに体の内側から次第に熱くなってくる。視界はピンぼけした写真のように曖昧になり時間が止まったかのように感じる。
唇が突然離され、外気が口の中に入ってきた。視界のピントが合うと見慣れた顔に、いつになく頬が赤らんだ大包平が目の前に居た。
「…突然すぎ」
涎が垂れているような気がして口許を拭った。まだ口の中には奇妙な感触が残っている。
「そんな顔をしても満更でもないんだろう」
口角を上げて笑ってみせる。普段見る堅実そうな顔つきとは違って狡猾な笑みに体がズクリと熱くなる。
「そんな顔されるとさ、」
期待するだろ、という言葉を飲み込んでただ大包平の顔を見つめた。きっと奴を見つめる俺の目は粘りつくような眼差しだろう。大包平は俺の意思に答えるように立ち上がると俺の背後に回った。すると抱き込まれるように両腕が回され、身体が自由を失う。大包平とは体格差があるため自然と包まれてるかのような態勢になる。
「…なんだよ?」
「お前も興奮しているだろう?鎮めてやる」
大包平の囁き声が耳にかかり擽ったさを感じる。大包平の節ばった武骨な手が俺の袴に回される。前紐を外され弄るように手が這いずり回る。手の位置といい、まさか…
「ちょ、ちょっと待てって…」
「遠慮するな」
平然とした声とは裏腹に片手が昂りを捕らえた。興奮でわずかに勃起していたそれは奴の手に触れたことにより昂りをが益々増大した。
「凄いな、もうガチガチだぞ」
「言うなって…」
何か企んでいる様な声色に顔は見えずとも悪い顔をしてんだろうな、と思いながら紅潮した顔を隠したくても大包平に抱擁されているせいで腕を思うように動かすことができない。
昂りを撫でるように五指がバラバラに動く。上下に緩慢とした手つきで扱かれる。
次第に扱くスピードが速くなり体中を電流のような快楽が駆け巡る。突如手つきが緩慢になると、尿道口をなぞるように撫でられびりびりと痺れるような感覚が体を襲う。亀頭を指で擦られるとすぐにでも達してしまいそうになる。
「あっ……ん…」
「もっと声を出してみろ」
「むりに…決まってんだろ…外に聞こえるって…」
「気にするな」
「俺が気にするんだよ…!」
一つ溜息を吐くと扱いていた手が止まり、離された。手が離れてもなお治まらない興奮にばくばくと心臓も早鐘を打つ。すると、大包平が前に座り徐ろにスラックスを開いて自身の陰茎を出した。唐突なその様子に思わず驚いて動きが止まる。奴の逸物は俺のよりも太くて、逞しい
「あ…な、なにして…」
「こうすれば、お前だけ声を出すことにはならないな」
大包平の巨体が近づいてきて肩と肩がぶつかった。状況を理解した時にはすでに奴の逸物と俺の逸物が重なっていた。直ぐに擦るように揺さぶられ昂り同士がぶつかる。手で扱かれるよりも強い快楽に思わず意識が飛びそうになる。
「ん…あっ…ああっ…」
「……っ…くっ…」
思わず声が出そうになり片手で口を塞いだ。すると大包平の手が伸びてきて口を塞いでいた手を外される。
「なっ…おい…」
「声を我慢するな。お前の声を聴かせろ」
熱を孕んだ声につい従ってしまいそうになるが、唇を噛んで抑えた。すると今度は奴の唇が重なり阻止される。噛んでいた唇を舌で舐められ、また体温が上がる。啄むような口付けをされながら昂りを擦る動きは止まらず、それどころか段々激しくなっていく。いよいよ本当に達してしまいそうだ。
唇が離れると大包平が俺の耳元で囁いた。
お前の声が聴きたいんだ
縋り付く声に俺は堰を切ったように身体を震わせる。
「あっあぁっ……いくっ……もっ…むりっ……あっ……」
「一緒にイくぞ…童子切…」
大包平の言葉と同時に精を吐き出した。堤が決壊したように流れ出るそれに大包平も俺も暫く息を荒くさせて動けないままだった。
久しぶりだからか、それとも他人の手によるものだったかは分からずともいつもよりも量が多く濃い。全く、本当に何をしているのか俺は。
大包平は息を上げて顔を紅潮させている。俺の肩に凭れかかるように体を預けるとずしりと重みを感じた。凭れたまま動かない。まさか寝たんじゃないだろうな、この男は。
自分から仕掛けて来たくせにどうしようもない男だと嘆息をついた。

薫り


「においがする」
そんなことを言って必死に鼻息を荒くさせている。餌の匂いを察知した犬のように薫りの在処を探している。こういう時ばかりらどうでもいいことが気になる性分の男だと改めて痛感させられる。
「花かな?」
「この季節は花なんて咲かない」
「でもにおいがするんだよ。いいにおい。甘くて鼻を擽るような薫り…」
花なんて咲かない、というのは少し語弊がある。こんな寒い季節でも咲く花はある。だが、周りを見渡しても花など咲いておらず、痩せ細った空五倍子色《うつぶしいろ》の土があるだけで、過酷な環境でも逞しく生きる植物が生えてる訳でも一箇所だけ肥沃した土壌がある訳でもなく、雑草が蔓延っているだけでどことなく寂しげである。
「おかしいな…気のせいか?」
辺りを見回してる目の前の男は腑に落ちないような表情で相変わらず鼻を動かしている。その姿に思わず溜め息を吐いてしまう。
童子切
名前を呼んで振り向かせると、鼻に溜め込んだ空気をゆっくりと出した。
「そんなににおっているが、案外自分の薫りだったりするんじゃないのか」
「俺の薫り?」
目を見開かせて不思議そうな顔をする。「何言ってんだ」とでも言いたげな顔だ。
「自分の薫りなんて分からないだろ」
得意げに話すその顔が妙に腹が立つ。それなら今すぐ気づかせてやろうと、目の前の男の体を手繰り寄せる。引力によって吸い寄せられたかのような肩口に顔を寄せ、着物越しにぴたりと鼻を押し付ける。控え目に薫りを吸い込むとかぎ馴れた薫りが鼻腔に侵入してくる。ああ、"いつもの"あの薫りだ。
「…なにしてるんだよ」
「薫りの確認だ」
顔は見えないが、きっと何とも言えない表情をしているだろうな。そう思うと抱き締めた体温がわずかに上昇したような気がした。