くつひもむすべない

一次二次問わずたまに18禁の小説を載せるブログ

2021-01-01から1年間の記事一覧

無題

帰宅すると”彼女”が駆け寄ってきて、俺の顔を見るなりぱっと嬉しそうに笑った。 「おかえりなさい、お仕事お疲れ様っ」 出迎えてくれた”彼女”は犬のようで、耳と尻尾が生えているのが目に浮かぶ。 やはりいつ見ても可愛い。仕事の疲れもこの可愛さだけで癒さ…

On Holy Night

駅の改札口を抜けると、雪が降っていた。顔を上げると鉛を溶かしたような灰色の空が広がっている。絵具で塗りつぶされたかのような不自然な色だった。虚空に向かって息を吐けば、白煙のように昇って消えていく。改札口から押し寄せる人の波に乗って、バス停…

どちらから求め始めたかは覚えていない。気づいたら唇を貪られていた。一瞬で大包平の顔が目の前に広がり生温かさを帯びた口付けをされる。大包平の唇は少し乾燥していて柔らかいとは言えなかったが、何とも言えない心地良さが体を包み一時の快楽を創り出す…

薫り

「においがする」そんなことを言って必死に鼻息を荒くさせている。餌の匂いを察知した犬のように薫りの在処を探している。こういう時ばかりらどうでもいいことが気になる性分の男だと改めて痛感させられる。「花かな?」「この季節は花なんて咲かない」「で…

花咲く呪

口から花びらが出てきた。いや、これは花びらなのだろうか。花びらに見える というのは幻視で本当はただの吐瀉物かもしれない。指先で僅かに吐瀉物に触れ てみる。本物だ。本物の花びらだ。薄氷色のうすい吐瀉物。俺はいつのまに花な んて食べたんだろうか?…

Dear My Brother

兄弟とは何なのだろうか。いや、何なのだろうかという問いは少し違う。意味は知っている。兄弟とは即ち血縁者、同じ親から生まれた者同士のことだ。では同じ親から生まれていない、血縁者でもない者同士は兄弟とは呼ばないのだろうか。そんなものは自明だ。…

良薬は口に苦し

童子切安綱という男は残酷な男だ。一見するとそんな男には見えない。虚勢を張っている。あの男は自分を偽ること、他人を欺くことに長けているのだ。あの男には見せかけだけの"優しさ"というものを持っている。長閑で穏やかで泰然として寛大な心を持っている…

太陽の方向へ

これ(In The Dark. - 靴とまぼろし)のおまけ いつからだろうか。"己が人の主を持つべきではない刀"だということに気づいたのは。いつからだろうか。再び人を信用することはないと確信したのは。いつからだろうか。"あの男"と共に生きていきたいと思ったの…

In The Dark.

春の日、君と出会った。君は所在なさげにそこに立っていた。こちらに気づくと困ったような顔をして視線を伏せた。その時何を思っていたのかは分からなかった。夏の宵、君が初めて笑った。縁側に座っている君の許に捕まえた蛍を見せてやると、目を細めて笑っ…

相剋する境界線(プロット)

これはまだ東の横綱が顕現していない世界線での話。 或る日大包平が出陣するとこれまで見たことないような敵と遭遇した。極めて人型に近いけど人とは思えないようなオーラを放っており、見たことはの無いが敵であることは分かった。大包平は倒そうとするが異…

六十九回目の追憶

「こんなところでどうしたんだよ」童子切が背後から声をかければ大包平は大きな体躯を億劫そうに動かして振り返った。突然の童子切にもさして驚いているようでもなかった。大包平と童子切は本体が互いに離れた距離にある。本来ならばこうして顔を合わせるこ…

童子切と大包平で「陽炎、抜錨します!」パロ

あいつと初めて会ったのは刀剣男士選抜試験の最終審査での帰り道だった。 突然の雨に降られ雨宿りしようと軒下に行くと先客がいた。赤い四方に尖った髪に長身で精悍な顔立ちをしている男だった。歳は自分と同じくらいだったが何だか近寄り難い雰囲気を醸し出…

大包平四周年記念話

「あれから四年も経ったのか」鶯丸が感慨深そうに言う。まるで大層なことかのような口ぶりだたが、驚丸は刀剣男士として顕現して五年以上の月日が流れており大包平よりも長くこの本丸にい る。しかも刀剣である彼らにとって四、五年など些末な歳月である。風…

耽溺

一 今朝からずっと気分が落ち着かないままでいた。 正直言うと”今朝”からではなくすでに”昨日”から今日のことで気もそぞろだった。 書架で本の整理をしている間も受付で貸出や返却の業務をしている間もやがて来る今日のことが頭から離れなかった。 今日は日…