くつひもむすべない

一次二次問わずたまに18禁の小説を載せるブログ

童子切と大包平で「陽炎、抜錨します!」パロ

 あいつと初めて会ったのは刀剣男士選抜試験の最終審査での帰り道だった。

突然の雨に降られ雨宿りしようと軒下に行くと先客がいた。赤い四方に尖った髪に長身で精悍な顔立ちをしている男だった。歳は自分と同じくらいだったが何だか近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
しかし何も話さないのもなんだか気まずいのでこちらから話しかけることにした。
「なあ、君も刀剣男士の選抜試験の帰りか?」
雨音が反響する中暫しの沈黙のち男は口を開いた。
「…そうだが」
やはり。そうだ。この時間にここにいるのも見た目や雰囲気からしてそれっぽいと思ったのだ。
会話を続けることにした。
「君どこから来たんだ?」
「…………」
「今日の試験、最終審査だけに難しかったよなー」
「…………」
「刀剣男士になれたら希望の刀種とかある?」
「…………」
何だよこいつ。さっきは答えたくせに何でいきなり黙り始めたんだ?話したくないのだろうか。
男の目を良く見ると冷たい鉄のような色をしていた。目も鉄みたいな色だから性格も鉄みたいに冷たいんだろうなと思ってそれきり話しかけるのをやめた。雨がやんできたので一足先に出ていくことにした。男はこちらを最後まで見ることなく黙って正面を見つめているだけだった。

あの男と再会したのはあれから数ヶ月経った日のことだった。

選抜試験された刀剣男士は本丸に配属される前に鍛錬場で戦闘の基礎を叩き込まれる。部隊対抗の手合わせで相手部隊に奴は居たのだった。今まで全く姿を見かけなかったので落ちたかと思っていたら、まさかこんなところで再会するなどとは思っていなかった。
相変わらず無愛想な男だ。手合わせが始まりそれぞれ隊員同士の1体1勝負となったが俺が当たったのはあの男だった。籤引でこれとは一体どういう運命なのだろうか。俺があいつの顔をちら、と見ると目があった。暫くあの鉄色の目で見つめた後逸らされた。俺の事を覚えていないのだろう。
勝負の結果は結論から言うと俺の白星だった。割りと早く決着が着いた。もう少し粘るかと思ったが案外潔い男だ。結局手合わせは俺の部隊の勝利で終わった。解散した後あの男ともこれでお別れだと思っていた矢先、あの男が物凄い形相でこちらにやって来た。
鬼を殺すかのような気迫に圧倒されそうになりながらもそれを顔には出さない。
「おいお前!」
「は、はあ……」
童子切安綱、とかいう名前だったな。」
「……君は」
大包平だ!さっき紹介しただろう!」
「あ、大包平くんね……」
ものすごく声がでかいし顔も近い。随分表情豊かだがあの時と別人過ぎないか?大包平と名乗った男は俺の頭のてっぺんから爪先まで見回した。
「お前、中々に強いのだな」
「そうかな」
「そうだ!この大包平を下したのだぞ!もっと自信を持て!」
「は、はあ」
こいつ、こんなキャラだったのか。
「俺は昔から何事にも努力を欠かしてこなかった」
「努力さえすれば大抵のものは手に入ったからだ。だからここでも努力を怠らなければ俺は強くなれると思っていた。実際鍛錬のおかげで手合わせでは無敗だった。お前に敗れるまではな。」
「………」
「俺はこの"大包平"という刀の歴史を知っている。"童子切安綱"と並び立ち日本刀最高傑作の太刀だと。まさに俺の生き様を表したかのようで俺に相応しい刀なのだ。
しかし童子切に比べて華々しい経歴や逸話がない。確かに大事にされてきた刀ではあるが俺は"お前"のように何者にも負けないような強さが欲しいのだ!」
「へえー…」
「俺が強くなるにはまず俺よりも強いやつを倒すということが最優先だ!!!だから、童子切安綱!お前を倒す!」
「倒す、とか言われても困るんだが……」
「何故だ?お前も刀剣男士だ。俺というライバルがいて競争心が上がって鍛錬に益々身が入るだろう?」
刀剣男士といってもまだ数ヶ月。どことなくこの体と力に違和感があって自分が"童子切安綱"になったという実感が少ないのだ。ここに来る前は惰性のように毎日を過ごしていた。ここに来れば何かが変わると思ったのだ。しかし、未だに前と何かが変わったというようには思えなかった。
「安心しろ。お前は童子切安綱、この大包平がライバルと認めた男だ!!この大包平がいればお前の強さは保証される!!心配するな」
「という訳で、童子切!お前は絶対にこの大包平が倒す!また明日手合わせを挑みに来るからな!」
そう言い捨てて大包平は颯爽と去っていった。今日の明日じゃそう強くはならんだろう…と思いながら厄介なやつに目をつけられたなあ、と小さく溜め息をついた。